鼠の奇跡
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「あっ」
梶原もそれを聞いてハッとした。
「そうだったな」
「そういうことさ。わかっただろ」
「ああ」
ここは闇市である。言うならばその存在自体が違法であった。ここで店を開くこと自体が本来ならしょっぴかれる原因となる。誰もがわかっていることだがそれをおおっぴらに言う者がいないだけである。
「しょっぴこうと思えば簡単にできるんだな」
「そういうもんさ。俺達が決まりごとってやつを無視したり抜け道を見つけるのと同じさ。あちらさんもその裏をかいてくるんだ。それが世の中さ」
「わかりやすいな」
「だからあんたを雇ったんだ。頼むぜ」
「俺は囮かよ」
「そうじゃない、見張りだよ」
男はまた笑った。そして笑いながらそう述べた。
「サツを見つけたらな。教えてくれよ」
「それも仕事か」
「一人でいるより二人でいた方がみつけやすいじゃないか。だからさ」
「ふん」
その通りであった。どうもこの禿た男、飄々としているが中々味のある男であった。言葉の端々に人生において妙に味のあるものがあった。
「それでいいかな。あんたにとっても悪い話じゃないし」
「まあな」
これだけの金が手に入る。悪い話である筈がなかった。彼はこの話を引き受けることにした。
「明日も来ていいか」
「勿論だよ」
男は笑顔になった。
「金は半分でな。それでいいだろ」
「ああ。ところでだ」
「何だ」
「あんたの名前を知りたいんだが。いいか」
「俺の名前か」
「聞いてなかったからな。よかったら教えてくれ」
「わかった。俺は前部屋ってんだ」
「前部屋か」
「前部屋尚行。覚えてくれたか」
「ああ。俺は梶原だ」
「梶原」
「そうさ、梶原義直だ。覚えてくれよな」
「わかった。じゃあカジさん」
「おい、いきなり仇名かよ」
しかし言われて悪い気はしなかった。仇名は軍隊の頃からあったので抵抗がなかったからだ。
「ああ。俺のことは前さんでいいぜ」
「前さんか、わかった」
「それじゃカジさん」
「何だ、前さん」
「明日も頼むぜ」
「ああ」
こうして二人はその日の別れの挨拶をして別れた。そして梶原は自分のバラックに返った。帰ってみると何故か昨日より涼しい気がした。
「酒を飲んでねえせえかな」
彼はふとそう思った。いつもならもう飲んでいる時間だ。だが今は飲んでいない。飲まずともいい気分であるからだ。こんな気分は久し振りであった。
「まあ今日位飲まなくてもいいな。折角帰ってきたしゆっくりと休むか」
そう言って腰を降ろした。すると目の前にあの鼠達がいた。
「何だ、御前等まだいたのか」
鼠達は彼に問われても答えはしない。ただそ
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