第一章
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第一章
自殺の後
小早川洋介は悩み疲れていた。その細長くいかついまるで何処かの島にある顔像のような顔もやつれきっており焦燥がありありと見えていた。
「俺はどうすればいいんだ」
彼はその中でいつもうわごとのように呟いていた。
「俺は一体」
家族は長男はぐれており長女は交通事故で入院している。そして家の仕事は上手くいかず借金さえあった。おまけに訳のわからない相手にいわれのないことで訴訟を受け非常に困った状況になっていた。まさに出口のない八方塞りの状況に陥っていたのである。
悩んでもどうしようもなく困り果てていた。そうしてそんなある日。遂に何かが切れてしまった彼はふらふらとある場所に向かったのだった。
「行って来る」
「何処に行くの?」
「散歩に行って来る」
家がやっている店を出て妻にこう告げるのであった。妻にしろ今の家の有様の最中にいて非常にやつれ困った顔をしていた。
「ちょっとな」
「散歩?」
「すぐ帰るから」
うつむいて虚ろな顔での言葉であった。
「すぐな」
「すぐになのね」
「ああ」
空虚な、まさに抜け殻での言葉であった。
「だからな」
「え、ええ」
不吉な予感がしたがそれでも。今の妻にはそれを止めることができなかった。そうしてそのまま夫を見送るだけであった。彼が何をしようとしているのか感じてはいてもだ。
小早川はそのまま家を出てふらふらと駅に向かう。虚ろなまま電車に乗って向かうのは終点だった。そこは有名な崖がある場所であった。
その崖は自殺の名所である。そこでもう死ぬつもりであった。空虚な有様で電車の椅子に座りそのまま時を過ごしていた。
「これで終わるんだ」
その中でまた呟くのであった。
「これで」
生きていてもう何もないと思っていた。そのまま終点に向かう。だが座っているうちに長い間碌に眠れなかった彼は意識を遠のかせてしまい。何時しか別の世界にいた。
気付けばやたらと大きな赤い服を着たいかめしい男の前にいた。彼が誰なのかはすぐにわかった。その赤い中国風の服と髭だらけの恐ろしい顔ですぐに、であった。
「まさか貴方は」
「左様、わしが閻魔だ」
自分から名乗ってきたのであった。その左右には牛の顔をした赤い鬼と馬の顔をした青い顔の鬼がいる。彼等を見てもここが何処かわかるものだった。
「そしてここにいる理由はわかるな」
「まさか私は」
「そうだ。死んだ」
やはりこう言うのであった。
「だからここにいるのだ」
「そうですか。じゃあやっぱり」
「御前は崖から飛び降りて自殺したのだ」
閻魔はこう彼に告げるのだった。
「そうして今ここにいるのだ」
「ですよね。そうじゃないとこんな場所にはいませんからね」
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