第一章
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第一章
タキタロウ
本当にいるのかどうかわからない。伝説での話だった。
「あんなのいねえって」
「何でそんなの信じるんだよ」
「いや、絶対いるんだって」
藤崎拡樹は否定する皆にあくまでこう主張する。かなりムキになって。
「俺は見たんだからな、あの池で」
「見たのかよ」
「ああ」
きっぱりとした口調で彼等に答えた。
「俺のこの目でな」
「本当かね」
「さあ」
だが皆信じようとしない。それにはちゃんとした理由もあった。
「あのな、御前あの魚は」
「伝説って言われてるじゃないか」
そう拡樹にも言った。
「いるのかどうかわからないっていうか」
「いないだろ、やっぱり」
「何でそう言えるんだよ」
しかし拡樹はそれでも言い返す。さらにムキになっていた。
「いるに決まってるじゃないか」
「それで御前が見たのは」
「あの湖だよな」
「ああ、そうさ」
ムキになったまままた言い返す。
「すっごい大きな魚がな。跳ねたんだよ」
「ふうん。大きなねえ」
「鯰かライギョじゃないのか?」
そうした魚もまたかなり大きい。だから彼等もそう言ったのだがそれでも拡樹の言葉は変わらないのであった。あくまで自分の目を信じていた。
「違うさ。そういう魚だって散々釣ってきたしな」
「どうしてもそれだっていうんだな」
「ああ、タキタロウだ」
彼はその魚の名前を言った。
「間違いない、タキタロウだよ」
「本当かね」
「信じられる話じゃねえよな」
それでもクラスメイト達の言葉も考えも変わらない。どうしてもであった。
「じゃあよ、藤崎」
「ああ」
そのクラスメイト達の言葉に応えた。
「御前タキタロウ釣ってみろ」
「魚拓持って来い」
そう彼に対して言うのだった。
「そうしたら信じてやるよ」
「魚拓があればな」
「ああ、わかった」
彼もそれを受ける。しっかりとした顔と声で答えるのであった。
「じゃあ釣って来るぞ。それでいいんだな」
「ああ、待ってるぜ」
「本当にいたらだけれどな」
「だから本当にいるんだ」
彼は意固地なまでにそう主張するのだった。
「絶対にな。それを見せてやるさ」
「まあ待ってるぜ」
「そういうことでな」
こうして拡樹はその魚タキタロウを釣ることになった。意を決した彼は一人でまずは普通のルアーを持って行くのであった。それで釣るつもりであった。
湖のほとりは静かで緑の木々が生い茂っている。湖は青く澄んでいてまるでエメラルドとサファイアが光沢だけなくしてそこにちりばめられているようであった。奇麗でそれでいて澄んだ風景がそこにあるのであった。彼はそこにやって来たのである。その手にルアーと魚拓の道具を持って。
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