覇王と鳳が求めるも麒麟に首は無く
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が良かった副長を思い出して心が翳る。
「そういえば、徐晃に渡してくれと頼まれたモノがあるわ」
「え……?」
誰から、と言われずに雛里は疑問が頭に浮かぶ。
呆けて見つめる雛里に対して、すっと春蘭が近づき、彼女の目の前に銀色に輝くソレをぶら下げた。
瞬間、雛里は飛びついてソレを両手で握りしめ、ぎゅっと胸の前に持って行った。
はらはらと涙を零した。ソレがどれだけ大切なモノか、彼女は知っていたから。
「あなた達が合流する為に通った戦場を確認してきたのだけれど……凄惨の一言に尽きたわ。抜け道の中は笑みを浮かべた幾つもの死体とそれよりも遥かに多い袁紹軍の死体が連なり、橋が焼け落ちた川の岸辺には満足そうに死んでいる隊員達が十人。あれがあなたの言っていた『捨て奸』……徐晃隊による最終手段の結果なのね」
雛里は溢れ出る哀しみから、もう流すまいと決めた涙を押し込められなかった。
ソレが手元に来たという事は、やはり彼の右腕は失われてしまったと同義であったから。思い出が幾つも浮かび上がって、雛里はその場で少女に戻ってしまっていた。
「副長だけは絶対に死なない……と徐晃隊の面々が私に訴えて来たのよ。だから下流まで探してみたら、川岸で腕と脚の骨が曲がっても血を吐きながら、打撲や切り傷だらけで這って動こうともがいている男を一人見つけた」
徐晃隊は彼の命令を達成する事に迷いは無い。だが……生き残る事も命令の内であった。
一人でも多く生き残れとは、仲間を助ける事であり、命令達成後に自分が生き残る事でもある。決死で突撃しながらも出来る限り生にしがみ付けという矛盾が彼から言いつけられている事。
しかし、本来ならソレを届ける役目を放棄する片腕では無い。だから、雛里には副長がどうなったのか分かっていた。
「見つけた時は既に虫の息だった。耳も聞こえず、目も見えず、私達が誰かも分からず、それでも副長は動こうとしてた。黒麒麟に伝えてくれと残した最期の言葉……春蘭が聞いたのだけれど、伝えてあげなさい」
認めたくないから聞きたくなかった。でも、想いを繋ぐなら聞かなければならなかった。
雛里はぎゅっと唇を引き結び、涙を零しながら春蘭の目を見据えてコクリと頷いた。
「聞いたそのまま伝えるぞ。
『すまねぇ御大将、一人でも多く生き残れって最初の命令守れなくて。だけど俺の心は御大将と共に。いつでも一緒に平穏な世を作るから。だからどうかその先で、幸せになってくれ。乱世に華を、世に平穏を』
……そう言ってから微笑みを零して……その男は息を引き取った」
「っ!……うぁっ……ふ……長さ……ごめん……なさい……」
もう耐えられず、声を漏らして泣き崩れた。
ズシリと心に圧し掛かる重圧は鋼のように重く、苦しい。失った悲しみは
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