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一つ一つの力
第一章
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、麻紀が左手に座っている。麻紀は左手を指差して美幸に告げてきたのだ。
「あそこに猫がいるから」
「猫もいるでしょう」
 それに対する美幸の返答はクールなものだった。
「それが一体」
「首輪がないから野良猫よ」
 彼女は言った。
「だから停めて。あのままだと可哀想よ」
「あの、お嬢様」
 美幸は少し困った顔になって麻紀に告げた。
「野良猫なぞ幾らでもいますし」
「車停めて」
 しかし麻紀はまだ言うのだった。
「町田さん」
「はい」
 運転手の名前だ。赤い髪を短く切った若い女の人だ。女性の運転手なのである。
「車停めて」
「わかりました、お嬢様」
「ちょっと町田君」
 美幸もまた彼女に声をかけた。自分より年下なので君付けである。呼び捨てにするのは好まないしちゃん付けは麻紀の手前宜しくない。それでいつも君付けにしているのである。
「そんなことしても」
「お嬢様の御言葉には逆らえませんから」
 忠義一徹の彼女であった。
「ですから」
「仕方ないわね」
「ちょっと待ってて」
 車を停めるとすぐに外に出る麻紀だった。仕方なく護衛の為に美幸も出る。彼女はただの執事ではなく麻紀のボディーガードも兼ねているのである。ついでに言えば麻紀が成長したならば秘書になることもあらかじめ決められている。文武両道の人物であるのだ。

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