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Fate/stay night -the last fencer-
第二部
魔術師たちの安寧
終わりゆく陽だまりの日常
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で近寄るのも失礼な気がしたので声を掛けてみた。
 まさか呼び掛けられることなど想像もしていなかったのだろう、きょとんとした顔をしてこちらを振り返る。

 以前の接触で警戒の必要はないと分かっているので、無防備なまま近づいて行く。

「今日も待ち人来たらずか?」
「うん、そんなところね」
「……ごめんな」

 少女の曇った顔を見て、思わず謝ってしまう。
 
 現れたのが逢瀬を待ち侘びる相手だったなら、きっとこんな表情はさせずに済んだ。
 その誰かとどういう関係なのかは知らないが、イリヤスフィールにとって大切な相手なのだろう。

「貴方が謝るようなことではないのよ、クロガミ」
「それでもガッカリさせちまったみたいなんで、なんとなくな……」
「律義なのね。わざわざ声を掛けさせちゃうほど、寂しそうに見えたかしら?」
「寂しそうな女の子を見たら男は思わず声を掛けるもんさ。出来れば可愛い子には笑ってて欲しいしな」
「かわ、いい……?」

 何故かそこだけをピンポイントで拾われた。

 特に他意なく出た言葉だったんだが、改めて強調されると何か特別な意味を以て言ったようで恥ずかしくなる。
 女の子に可愛いとか綺麗だねとか、性格的に面と向かって言える方なんだが、想定外の反応をされると非常に困る。

 大まかに言えば肯定する子と、そんなことないですって謙虚な反応する子に分かれるんだが。
 え、私ってカワイイの? って聞き返されるパターンは初めてで、申し訳ないがまともな返事が出てこない。

「そ、そんな可愛いイリヤスフィールさんに貢物でーす」

 袋からゴソゴソと大判焼きを取り出し、そっと差し出す。

 若干声が裏返りかけてたのは無視だ。

 此間は美味しそうに食べてくれてたんで、お土産としては安牌かなーと。
 会える保証もなかったが、それならそれでフェンサーに渡すつもりだったので無駄にはならない。

 ここで一つ問題なのは、受け取り拒否された場合どうするのか?

 そのときはもう悲しみを背負って帰宅するしかない。
 出来ればフェンサーに……は何も言わないでおこう、面倒くさいことになるのは目に見えてる。

「…………」

 数秒の間。とてつもなく長く感じる。
 自分からは引っ込められない、ただ彼女の返答を待つのみ。

 そしてあの日と同じように、おずおずとその小さな手を伸ばして────

「ふふ、ありがとう」

 ────無邪気な笑みを浮かべながら、受け取ってくれた。

 それだけで"会えてよかったな"なんて感想まで浮かんでくる。

 ついさっきも似たようなときめき感じたが、今日はキュンキュンする日なのかもしれない。

 ブランコの支柱にもたれかかって一息つく。


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