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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
21.Jury:『Deep Blue』
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?」
「考えときます。お詫びに、次は後輩でも連れてきますよ」
「期待せずに待っていますよ」

 引き留めるように、そんな声。嚆矢はヘルメットを被りながら、それに答えた。
 直ぐに、スクーターの軽いエンジンの音とヘッドライトの朧気な輝きが去っていく。

「……さて」

 それを見送り、師父は入り口の看板を『Close』として。

「――――『次があれば』、ね」

 その眼差しは、雷鳴を孕み始めた空を見上げていた……。


………………
…………
……


 歩道と車道を分離するポールに寄り掛かっていた『彼』は、黒い厚手のレインコートの中から空を見上げる。
 吐き出す紫煙が、僅かな間、空気を白く汚染する。だが、すぐにき蒼鉛色の、もう、泣き出す一歩手前の空を。

「――――応えよ(イア)!」

 空間が震えた。世界が(おのの)いた。呟いた声、その悍ましき旋律に。大凡(おおよそ)、人の喉では有り得ない戦慄に。
 それは、まるで……例えるとするなら餓えた鮫が、獲物を見付けた時に。居るとするなら、彼等の『神』を讃える時の祝詞だ。

応えよ(イア)応えよ(イア)――――!」

 昂るように、声が熱を持つ。回りの通行人達が、そんな『彼』を避け始める。
 だが、その歓喜に酔うように。熱に脳をヤられた獣の如く。『彼』の声は、大気を揺らし――――

応えよ(イア)応えよ(イア)応えよ(イア)――――深海大司祭(ムグルウナフ)()待ちいたり(フタグン)!」

 ほとんど絶叫にも似た、両手を広げての祷り。それが天に木霊した時――――ポツリ、ポツリと。乾いていた路面に花開く、雨粒の花弁。それは間を置かず、地表を一面に覆う夕立となり、代わりに傘による色とりどりの花畑が出来上がった。
 皆、一様に足早に帰路に就く。たった今迷惑そうに遠巻きにしていた『彼』等の事は、既に意識の外。

 その中に、ただ一人。『彼』だけは――――ただ、じっと車道を眺め続けて。
 通り抜けた、一台のスクーター。予想外の雨に、慌てて飛ばした様子の嚆矢を、目だけで追って。

「行くぞ――――吸血鬼狩りだ、『水神クタアト(クタアト・アクアディンゲン)』」

 赤褐色の髪とペイズリーの瞳を持つ白皙の美青年は、右手に携えた――――『()()()()()()』で装丁された『魔導書』に、息吹を掛けた……。


………………
…………
……


 最初は、鼻の頭に当たった一粒。それに少し慌ててスピードを上げたが、一度ひっくり返った雲のバケツから溢れた水は、そんな細やかな抵抗を嘲笑うように一気に下界へと降り注いだ。
 ものの一分としない内に、濡れ鼠だ。更
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