第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
21.Jury:『Deep Blue』
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『彼』は監視を中断する。『風紀委員』第177支部の一室、実に下らない三文芝居が繰り広げられていた休憩室から。
代わり、取り出したのは――――一冊の本だ。自棄に生々しい、湿った肌色をした『ソレ』を開いて。
「伯父貴達に知らせろ――――■■■■■■・■■■■」
実に聞き取り辛い、まるで『人間の肺』ではなく『魚類の鰓』で声帯を鳴らしたような、そんな嗄れた声を。
そして、『何か』が窓際を伝っての雨水用の樋に飛び込む。ガサゴソと蠢く音は、その『何か』が下水に潜り込むまで続いた。
「さて……後は、『狩り』の下準備だけか。吸血鬼に有効なのは、大蒜と十字架……いや、日光無効にはやはり、『銀の杭』か」
それを見送り、男は――――既に数本目ともなる煙草を床面に捨てて踏み躙る。
「まぁ、何にしろ……先に雨具の調達か」
……ニヤリと、笑う。晴れ渡った空を見上げながら、もうすぐ『雨』になると。『樹形図の設計者』の予報ではない、別の確信に背を押されて。
………………
…………
……
学ランを左肩に引っ掛けて、一人支部を後にする。時刻は既に夕方、久々のデスクワークに手間取った為だ。気温は二十五度と若干下がっているが、湿度は更に上がっていてやはり暑い。そして、後一時間半もすれば夕立が来る。
学園都市のあらゆる『気象状態』を計測・演算する『樹形図の設計者』の予報……否、『予定』に間違いはない。事実、斜陽に染まり始めた遥かな空の際からは、入道雲が顔を覗かせている。
――帰り着くまでは、約十五分。全然、余裕だ。だから……そうだな、ニアルさんのところに顔を出しとくか。
相談事なら、沢山有る。ステイル=マグヌスの事とか、『妖蛆の秘密《デ・ウェルミス・ミステリィス》』の事、あの紅い女占い師の事……あの悪夢に現れる、『混沌の玉座』の事を。
等と、久々に体に良い物を食べたからか。妙に調子が良い体を軽快に弾ませて。しかし、思考は沈んだまま。尚、飾利は二時間ほど前にデスクワークは済ませて帰っていった。
少し先の、スクーターが停めてある駐輪場を目指して歩く。途中、自販機で缶コーヒーを買ったりしながら。勿論、当りで二本目を手に入れて。
――つーか、飾利ちゃん……ブラインドタッチで片手間に俺と話しながら報告書を三十分で済ませるとか……凄いな、見縊ってたぜ。
人には意外な一面もあるものだ、と唸りながら。彼は、師の待つ喫茶店へとスクーターを走らせた。
………………
…………
……
カロン、と。氷
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