第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第三節 月陰 第三話 (通算第13話)
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めに民衆の不満も独立運動へと繋がるほどではなかっただけであり、経済活動は一部の地域を除いて破綻しており、ネットワークの途絶、後背からの復旧を地球居住者全員が望んでいた。人々は、明日の独立より今日の生活を守るのに必死であった。
地球連邦政府の発行した戦時国債は国家予算の二十年分を超える額にまで膨れ上がり、大口の引受手であった月面都市経済連合はこの破棄と引き換えに『月面の非武装中立化』と『連邦議会の議席』――つまり、地球連邦軍の駐留の拒否と市民権を得たのである。これによって、経済破綻から免れた地球連邦政府は、地球復興に全力を投入していく。
「どうしてさ?オレだってスペースノイドのつもりなんだけどな……」
「ムーンチャイルドが何を言うかね」
ムーンチャイルドとは『月生まれ』の意味であり、スペースノイドの中では、羨望を以て呼ばれる。コロニー間の移民は左程難しくはないのであるが、月への移民は原則として認められていない。月で生まれることができるというのは、月に住めるということであり、スペースノイドからすれば、エリートなのである。
「三代前まで遡れば、みんなアースノイドだろ?」
ふてくされた様にカミーユが宣う。確かに、三代も前になれば、多くの者は地球出身者だった。だが、それとて、志願移民者と強制移民者に別れる。サイド1、2、3は志願移民者が多く、サイド4、5は強制移民者が多かった。サイド6は、政府関係者や経財界関係者が多く、一種のリゾート地的なサイドだった。
「でも、親や本人がどこで生まれたかで、配属先は大きく左右されるぜ?」
ランバンの言うことは確かだ。
同じフォン・ブラウン校であっても地球配属になった者もいれば、ティターンズに配属された者もいる。カミーユとランバンのように月に配属されたのはまだいい方だ。折角連邦軍士官学校にはいったにも関わらず、サイド駐留軍に戻される連中だって多い。ランバンは、カミーユとタッグを組んでいたことが月に配属されることに有利に働いた。ランバン自身そのことを理解しており、カミーユに感謝している。口には出さないまでも。
士官学校は、軍の編制が再編されるのに伴い、ジャブローの本校の他、パリ、ニューヨーク、フォン・ブラウンなど八カ所に統合された。宇宙では唯一フォン・ブラウンのみが連邦士官学校である。サイド政府軍も一応は地球連邦軍であるとされているため、サイド政府軍からも士官学校への入学は多かった。しかし、サイド出身者が地球連邦軍に残れるケースは少なく、ランバンは周囲にうらやましがられた。だが、カミーユとて、ランバンがいなければ、ナードになっていたことは疑いがない。メカいじりとパソコン趣味が嵩じてジュニモビ大会などに出る様になれたのは、ランバンが居たからだった。
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