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邪炎騎士の御仕事
女狐の懐刀
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にないノックの音が響く。その部屋は女傑の私室であり、限られた者しか入室を許されていない。連れ込まれる者はいても、自らの足でそこへ赴く者は皆無に等しいので、そういう意味では本当に珍しいというべきだろう。

 だが、そのノックの主である少年からすれば、それはいつものことであり何ら特別な意味を持たない行動であった。まあ、そんなことを表だって言えば、かの女傑を信奉する連中から何をされるかわからないが。

 「――――――――――」

 いつも通り答はない。が、入れということなのだろう。ひとりでに扉が開く。噎せ返る様な淫靡な香りが鼻につくが、少年は僅かに顔を顰めただけで、躊躇なく部屋へと踏み入れる。

 建物の外観から豪奢な洋室で天蓋付の豪奢なベッドかと思いきや、それを裏切るような純和風の私室。最高級の畳が敷かれ、その中央に最高級の羽毛布団に包まれて、『女狐』と呼ばれる女傑は眠っていた。

 寝相が悪いのか、布団がはだけ、その蟲惑的な肢体が一部露わになっていた。寝間着が乱れ、その豊かな胸元がさらされている。寝苦しいのか、絶妙な感じで吐き出される呻く様な熱のこもった吐息とあいまって、なんとも淫靡な寝姿であった。
 さらに年齢不詳の絶世の美貌とくれば、男ならコロッといってしまっても、少しもおかしくはない。実際、この女傑の虜になっている者は老若男女問わず多いのだから。

 だが、少年にとっては最早見慣れたものであり、何を今更という感じである。少年が女傑を訪ねる度になにかと誘惑しようとするのは、恒例行事である。それに正真正銘の本物の淫魔から手解きを受けている身である。今更、この程度で動揺するような初心な人間ではないのだ。

 「起きろ葛葉。俺を呼んだのはお前の方だぞ。後、寝たふりなのはばればれだから」

 『葛葉』、かの大陰陽師安部晴明の実母であると言われる妖狐の名を女傑は名乗っている。その転生体という話であったが、嘘か真実かは定かではない。この国の古からある護国組織『クズノハ』が襲撃などしていこないことから、案外本当なのかもしれない。

 「……ふう、相変わらずつれないわね黒。私の艶姿を見たら、性別問わず発情するレベルの魅了のはずなんだけど」

 そう言ってけだるげに起き上がる女傑。ちなみに黒とは少年のここでの呼び名である。実名では色々問題ある為、黒騎士であることから『黒』と女傑が決めたのだった。

 「俺に魅了をはじめとした精神科的な干渉は一切効かない。前にもそういったはずだ」

 「最初は幼いだけかと思いきや、思春期に入ってもこれだものね。嘘でもなんでもなかったわけね」

 どこか面白くなさそうに女傑は言う。まあ、自身の美貌と異能を否定されたようなものなので、無理からぬ話である。しかも、彼女の私室であるこの部屋は魅了
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