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翅の無い羽虫
九章 発症と処理
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んですよ」
 それ以前になんでそういうことを知ってるんだとミカドは思ったが、訊かないことにした。
 浮き出た青い血管を脈立たせながらその肌黒く太長いそれはミミズのようにくねくねと便器の中を先程排出した赤い液体と緑青の液体をぐちゃぐちゃと混ぜながら活発に動く。
「な、なんか音がするんだけど……」
「楽しいこと考えてください。……やっぱり気を強く保ってください」
 瞬間、イノはそれを指で突き刺し、べりっと袋を破るかのように両手でそれの表面を引き裂く。
 ぴぎゅーっと何か空気を外に押し出したような、しかし小動物のような甲高い断末魔がそれから響き、勢いよく赤い粘液を噴き上げる。それが天井にまで達し、とろとろと天井から赤い粘液が垂れ続ける。
「い、いま鳴き声聞こえたんだけど……」
「ミカドさんの放屁した音です」
「嘘バレバレだよ!」
「えー」
 なんでわかったのとでも言いたげな声を出し、再び指を突っ込む。
 ぼと、ぼと、と一個体ずつ少し大きめの蜘蛛のような蠍のような虫の形をした肉塊の死骸を便器の中へと引きずり出し、どぼどぼと入れていく。便器は臓器のようなものと蟲のような死骸でいっぱいになっていた。異様な腐臭が鼻につく。
「流石にこの量は流せないな」
 うーんと悩んだイノはとりあえず便器のふたを閉める。
「これで全部です。ミカドさん、目を瞑ったまま左腕を出してください」
「わ、わかった」
 ミカドはぶつぶつと腫れ上がった赤い卵の群が発生した左腕をイノの前に見せる。
 イノはその腕を腫瘍ごと優しく擦った。すると、卵ひとつひとつが膨れ上がり、ぽろぽろと一個ずつ取れ始める。
 イノは再び便器のふたを開け、それらを入れる。再び閉め、その上に座る。
「もういいですよ。目を開けて服を着て結構です」
 ミカドはゆっくりと目を開き、おそるおそる狭い空間の辺りを見回す。
「……天井に血が……」
「あ、それは許して」
 ふたの閉じた便器の上に座ったままイノはたははと笑った。
「……」
 あの中に自分から生まれた異形の生物が溜っているのかと息を呑む。それを平然と見て、触ったイノはどれほど精神が強いのだろうか。そんな疑問が浮かぶ。
「……え、と、ありがとう、ございます」
 とりあえず、私はお礼を言う。
「大丈夫です。ミカドさんを救う為ですもん」
 そう笑顔でイノは返した。思わず私も「はは」と笑ってしまう。
「それにしても、なんか体が軽くなったような……」
「そりゃあミカドさんの細胞が減ってきたからですよ。あれは元々ミカドさんからできてましたから」
「……」
「でもま、なんとかなりますよ」
「根拠はないのに?」
「もちろん」
 その自信たっぷりに言う言葉にぷっと笑う。私の様子を見て、イノは安心したように微笑む。元からそうい
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