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乱世の確率事象改変
残るは消えない傷と
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死のうがどうでもいいんだよ。ホントは袁家だって壊れたらいいしー」

 零された言葉に驚愕を禁じ得なかった。思わず、雪蓮はそのまま思考をぶつけてしまう。

「っ! あんたは袁家の為に戦ってるわけじゃないっていうの!? あんた程の力を持ってたら何処にだって行けるでしょう!? なんでわざわざあんな鬱陶しい場所にいるのよ!」
「別にあんなとこに思い入れなんか無い。夕が居るからあたしはいる、それだけ。富も名声も、他の誰かの命だってどうでもいい。夕が幸せに生きてくれたらそれでいい。夕が望むなら、望んだように世界を変えるだけ。あんたのくだらない孫呉への誇りは、夕が望む新しい世界の為の手段になりそうだから、此処では殺さないであげるんだよ♪」

 昏い光を映した瞳と三日月型の嗤いを見て、怖気が走った。
 他者だけの為の生ける屍、本物の異常者がどのようなモノであるのか、雪蓮は初めて思い知った。
 目の前の女は、自分の命であろうとどうでもいいのだと。生への執着も、他人が大切にしているモノも、誰かの命でさえ、まるでガラクタのように放り投げるのだと。
 自らの為の欲で無く、名を残そうともせず、誰も信じず、たった一人を信じて、その一人の為だけに他者を殺し続けるその存在を、雪蓮は根幹にあるモノまで理解する事が出来ない。

「……狂人め」
「なんとでもどうぞー♪ 自分有りきのあんたじゃ理解してくれないのは分かってたもん。あんたじゃなくて秋兄と話したかったなぁ。
 さ、ちょっとは体力戻ったんじゃない? あたしも結構身体が疼くタチだからさー……楽しませてね♪ 殺さないで苦しめるの、大好きなんだぁ♪」

 地を踏みしめ、ジリと音が鳴る。
 必死で雪蓮の方へと向かおうとする兵は、全てが紀霊隊によって抑えられている。
 その背中を切り拓いて逃げる事は出来るだろう。明がその間に、後ろから斬りかかってこなければ。
 明は突き刺す敵意で言外に伝えていた。
 命を取らずとも、腕の一本、脚の一本は貰っても構わないだろう、と。
 戦場を駆ける戦姫たる『孫策』を殺す。もう兵が想いを馳せる指標にはなれない、ただの雪蓮に戻すから、歯噛みしながら乱世の行く末を見ているがいい……愛する妹達に同情や怨嗟、居た堪れない感情など多くの不愉快なモノを向けられながら、と。
 積み上げてきた事柄から、戦えない戦姫など乱世に於いては誰も期待しない。民と兵は希望を向ける事も無く、臣下にも不和を齎す。されども能力的に見れば有用であり、嘗ての王であるから、何かを求められれば応えなければならず、不足があれば責められる。未来ある妹たちには目の上のたんこぶになるだけ。
 なんと悍ましい生なのか。そんな事態になれば、雪蓮は潔く自刃するか、誰とも交流を絶って隠居するだろう。
 しかし今、戦場に出てきてし
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