残るは消えない傷と
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やいや、これでいいんだ。これで、なぁ?」
にたりと笑みを向けられて肌が粟立つ。口元から零れる血が増え、それでも尚、紀霊は笑っていた。
「クク、はは、あーっはっはっは! 孫呉に呪いを! 悠久の呪いを! 乱世の果てに、孫呉に数多の絶望のあらん事を!
小さき姫には平穏を! 我は紀霊! 輝く未来に希望溢るる命達の幸福を願うモノなり!」
悍ましいモノに染まった瞳は昏く、声は裂りさけそうなほど苦しげだった。
睨まれると、渦巻く瞳に吸い込まれてしまいそう。
「見るな蓮華! 傷が残る!」
思春から離れない紀霊を引き離そうと近くに来ているはずなのに、姉さまの声が遠くから聞こえた気がした。それでも、私は思春の肩越しに見える彼女の瞳から目が離せない。
ゴポと血の塊を吐き出し、それでも彼女は笑っていた。
「っ! さらば、だ、孫権。未来永劫、苦しめ。守りたいのに守らない、矛盾のハザマで、な。貴様の、守りたいモノは……壊してやったぞ!」
言い切った瞬間、紀霊は自ら身体を捻り、思春の刃で己が腹を引き裂いた。
「ぐっ……はは、ははは!ふっ……くはっ、あは、あはははは! あはははははは!」
「いやっ! 利九っ! 死んだじゃやだっ! 利九っ! 利九――――!」
ボタリと臓腑が零れ落ちても尚、紀霊は立って笑っていた。その女は誰が見ても異常なのに、小蓮は紀霊の真名を大切なモノのように愛しげに、ずっと呼んでいた。
込み上げる吐き気と共に、先程のあの女の言葉が脳内で響き始めた。
耐えきれず膝を着き、腹の中身を全て吐き出した。
脳髄に刻まれるは怨嗟の声。一つ一つと増えて行くそれらは、自身が見殺しにしてきたモノ達と、孫呉の未来の為にと殺した、私達と同じような輩の弾劾の声。
そして最後に一つ、最悪のモノが追加された。
『ねえ、シャオが裏切るなら、利九みたいに殺すの?』
頭の中で響く声は、愛する妹からの声だった。
――紀霊をあれほど大切に思っていた小蓮が、私達を裏切らないと何故言い切れる
これから私は妹に疑心暗鬼を向けなければならない。疑わしいなら……
これが背負うという事、なのか? これが王というモノなのか?
ぐるぐると回る思考は止まらない。
どれだけ経っても紀霊の笑い声が無くなったのか分からなかった。耳の奥にこびり付いて離れなかったから。
姉さまが何かを言っていた。私には、もうそれが聴こえなかった。
自責が心を占め、脳髄に声が溢れかえっていた。
これからもこうやって繰り返していくのか、姉に従うならそうなるのだと。
そして私は、首筋にトンと衝撃を受けた。
途切れかける意識の中に見えたのは、笑いながらその身を倒していく紀霊の怨
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