残るは消えない傷と
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震えながら俯いて、拳を握りしめた小蓮は一つ二つと涙を零していく。
今の小蓮は何をするか分からない。思春に瞳を向けると、同じ事を考えていたのか、了解というように瞼を二回瞬かせた。
「クク、あは、あはは、あはははははは! さあ、私を殺せ、孫権。責を背負うのだろう? 小蓮の憎しみを受けるのだろう?」
「ダメっ! 絶対に殺させないんだから――――」
「ちょっと……黙ってなさい、小蓮」
冷たすぎる声に、ブルリと、無意識の内に身体が震えた。姉さまから見た事も無いような圧力が放たれていた。
疾く、小蓮は口を噤み、ゴクリと喉を鳴らしていた。
誰もその場で動く事が出来ない。話す事も出来ず、呼吸を紡ぐ事ですら困難だった。
「あんたが人を外れたのはよく分かったわ。思春、小蓮を連れてこの場から離れなさい。蓮華も、ね。やっぱり後は私でやっておくから、休息をとっておきなさい。冥琳、二人の事は任せたわよ」
「ああ、任せろ」
厳しい瞳は行けと無言で促している。冥琳も、一つ首を振って無駄だと合図した。
紀霊の死に様を私達に見せるつもりが無い、そう姉さまは考えていた。
「い……や……いやだ……殺さないでっ!」
重苦しい圧力を向けられてもどうにか言葉を紡ぎ、小蓮は叫びを上げるも、思春によって近付く事も出来ずに運ばれるだけだった。
その声を聞いた紀霊は、先程までの昏い瞳が嘘のように、透き通った眼差しで小蓮に笑いかけた。
「さよならです、小蓮。最期に言っておきましょうか。あなたのこと、私は大好きでしたよ。どうかそのまま……あなたのあるがままで世界に抗って下さい、私の姫様」
言葉を残し、想いを残し、紀霊は全てを諦めた。ただ笑顔で目を瞑り、自身に来る死を待っていた。
――――――と、見えただけだった。
私が紀霊から目を切ろうとした瞬間、怪我をしている姉さまが近づくよりも速く、紀霊は駆けた。
咄嗟の事に反応できずにいると、一人の影が私の前に立ちはだかった。
リン、と鈴の音が鳴る。
涼やかな音は黄泉への手向けだと、そんな事を考えていた。
「がはっ」
「利九っ! 利九――――っ!」
急ぎ、小蓮を降ろした思春が、縄に縛られたまま迫ってきた紀霊の腹を短刀で突き刺していた。
小蓮が近づこうとしたが、咄嗟に冥琳が割って入ってそれを抱き止め、視界を覆った。
「なんで!? なんで傍に行かせてくれないの!? お腹を刺されたんだよ!? 冥琳! 行かせて! 行かせてよぉっ!」
必死で抗うも、身長差から抜け出せないようだった。
「クク、貴様ならこうすると、思っていたぞ、甘寧」
「やはり蓮華様が狙いか狂人め、蓮華様には指一本触れさせん」
「いや、いやい
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