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乱世の確率事象改変
残るは消えない傷と
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やる。冥琳だけは鋭く目を光らせたが、何も言うつもりは無いというように直ぐに目を伏せた。

「美羽様は負けました。これほど大きな大敗を喫した袁の後継者を、袁家の上層部がタダで残すわけが無いんです。それは袁紹にも、田豊さんにも、張コウさんにも、七乃様にも変えられません。殺されもせず、豚共に穢される事も無く、綺麗なままで生きていたとしても、あなたと同じ境遇に立たされるのは確実です」

 諦観の瞳を見た姉さまも私も、言っている意味を理解した。

「そ、それって……」
「七乃様に対する人質ですよ。あの方の有能さはよく知っているでしょう? 金と名声が大好きな袁家としては欲しい人材の一人です。今までは揚州を治めさせて吸い上げられたから良かったですが、南皮に帰ったなら本腰を入れて馬車馬の如く働かせるでしょう。
 そして私は敗軍の将にして失態の大本。袁家は疑り深くもあります。逃がされれば敗北の責任を取らせるとして殺されるのは確実です。頭の良い田豊さんや郭図は変えが効かないのでまだ機会を与えられるでしょうけど、武人である私は無理なんですよ」
「じゃあ……私達の軍に――――」
「言ったでしょう? あなたを信じられても、こいつらを信じる事は出来ないと。それに美羽様の為に裏切れと言われたら、私は必ず裏切ります。それを是と出来る、そう言えるのが王族なのですか? 孫策、孫権」

 話を向けられ、私は思考に潜る。
 確実に裏切るモノを内部に残す。そんな事が許されるのか。
 否、紀霊が言っている事はそれだけじゃない。
 自分達で追い詰めた袁術を助け出す為に、孫呉の力を使えるのか、とも問うているのだ。
 そんな事は出来るはずが無い。掌を返し、悪と断じたモノを助け出す為にまた犠牲を増やすなど、許されるわけが無い。
 今までの犠牲の全てを無駄にしても、叩き潰した哀れな傀儡を助けようと出来るか……否、不可能だ。私達はもう、事を起こしてしまったのだから。
 選べば平穏は作れない。私達は孫呉の地に立っていられない。ひび割れた信頼の地盤は容易に欠損し、瞬く間に崩れ去るだろう。
 つまり、どうあがいても小蓮の望みは叶えられない。
 小蓮の瞳が私達に突き刺さる後ろで、紀霊は薄く笑みを浮かべていた。昏い暗い闇が渦巻く瞳は恐ろしく、怨嗟よりももっと悍ましいモノだった。

「無理ね。それに袁術を助ける事も出来ないわ」

 姉さまも気付いていたのか、無感情な瞳で断じた。
 悲壮を漂わせていた小蓮の瞳に昏い色が揺れ始める。妹は、孫呉全てを怨み始めた。

――ああ、ダメだ。紀霊にこれ以上喋らせてはいけない。小蓮が引き返せなくなってしまう。

「大徳って呼ばれてるお姉さまなら……助けてくれると思ったのに……私の想いよりも……やっぱり皆、責任の方が大事なんだ……」

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