残るは消えない傷と
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「そっか。本当に優しい奴だったのね、あんたは」
「七乃様も美羽様だけには優しい。美羽様も親しいモノには優しい。誰もが同じだ。貴様らは余りにも我らを知らなさ過ぎた。上層部に従うしかなかったとしても、貴様らは美羽様を殺すのだろう?」
「そうね。例えそうだろうと、袁家が私達の家を掠め取ったのは変わらない。例え袁術が傀儡だとしても、この状況じゃ生かしておく事は出来ない」
「民の為に、後の世の大きな平穏の為に純粋無垢な小さき命を消すか。やはり貴様は……貴様らは……ふふ、あなたの話を聞かないようですよ! 小蓮!」
紀霊の声が大きくなり、その瞬間に天幕の後ろから小さな影が飛び出した。
桃色の髪を二つ輪にして括り、蒼い瞳には涙を湛え、ばっと、紀霊の前に飛び出したのは妹だった。
「シャオ!?」
「何故……小蓮様が此処に。それに私の部隊のモノは――――」
「思春の部隊はね、せっかく久しぶりに会えたんだからとびっきりの悪戯をしてやりたいんだって言ったら、内緒にしてくれたよ。私はずっと前にこの陣に着いてた。お姉さまとお姉ちゃんが、利九達を捕まえたら出ようと思って、天幕の後ろに思春の部隊のマネをして隠れてたの。だから思春でも気付かなかったでしょ?」
驚愕。明命や亞莎は何をしている。小蓮だけは城から出すなと言っておいたのに。
それを見透かしたかのように、小蓮は私に向けて怒りの眼差しを向けた。
「利九が内密で城から抜け出す道を教えてくれたんだよ。亞莎だって、明命だってその道は知らない。だって、万が一の時に美羽達が抜け出す為の秘密の抜け道だったんだから。それより、お姉ちゃんはそんなに利九を殺したいの? 責を背負うって何? 私から憎しみを向けられるのが責任なの? 私は……っ……殺さないでって言ったじゃない!」
向けられる瞳はやはり怨嗟だった。紀霊が何を考えて嬉しそうにしていたのか理解出来て、悲しみと怒りが綯い交ぜになり、私の思考はぐちゃぐちゃと混ざってしまう。
次いで、小蓮は姉さまに泣きそうな顔を向けた。
「ねえ、お姉さま。シャオはずっと、ずっと助けられてたんだよ? だから、シャオにその恩を返させて?」
痛い沈黙だった。
姉さまは表情を変えない。感情が表に出やすい人なのに、今この時の姉さまの感情は全く読めなかった。せっかくの再会だというのに、どうしてこんな事になってしまったのか。
シャオは紀霊を生かしてやれと言っている。そして袁術にももう関わるな、と。出来るかどうかで言えば、袁術には逃げられたから、それも叶うだろう。後の諍いの芽を育てるのも覚悟するなら、だが。
幾分か後、漸く、姉さまが口を開く……前に紀霊がポツリと言葉を零した。
「無理ですよ、小蓮」
「え……?」
皆は訝しげに紀霊を見
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