暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
残るは消えない傷と
[19/24]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
してもいい?」

 余りに軽く、姉さまは紀霊の処遇を話し出した。
 気付かぬはずが無い。これは私に気を使っているんだ。これ以上紀霊と言葉を交わさずにすむように。妹の友を殺す責を背負う為に。
 それでいいのか、と疑問が起こる。ほっと安堵している自分が居る。嫌だ、と思った。

――もう、姉さまだけに背負わせはしない。

 小蓮の友を殺した罪を背負うのは私じゃないとダメだ。私があの子から憎しみを向けられ、それでも長い時間を掛けて解きほぐして見せなければ、私の願いは叶えられない。私は……私自身の想いすら確立出来ない。

「紀霊、話すつもりは無いんだな? それに……袁家との交渉にはお前の身柄は使えない、そうだな?」

 冥琳が聞いても紀霊の答えは肯定を促すかのように沈黙だった。何故か嬉しそうに、厭らしく笑いながら。

「……なら拷問等の辱めを与える事無く、潔く死なせてやるべきだろう」
「そ。じゃあ、此処じゃ汚れちゃうから、外へ行きましょうか。自分で歩く、わよね?」
「貴様らの手など借りない」

 縛られたまますっくと立ち上がった紀霊は何処か満足そうだった。何故、この女は今から死ぬというのに、こんなにも嬉しそうなんだろう。
 フルフルと頭を振るって疑問を切り捨て、私は姉さまに言葉を紡ぐ。

「姉さま、紀霊の処断は私にさせてください」
「ダメよ。こいつを殺すのは私の役目だもの」
「いえ、どうか私に。もう……私も責を背負う覚悟は出来てます」

 言うと、姉さまはじっと私を見やった。優しい姉では無く、心の内側を見透かすような王の瞳。
 ふっと息を吐いて、しょうがないわね、というように苦笑を一つ。

「だそうだけど? 紀霊はどっちに頸を飛ばされたいかしら?」
「……なら孫権、貴様が私の命を絶つがいい。クク、ははは。そんなに私を殺したいのか」

 何が可笑しいのか。苛立ちが胸に湧く。姉さまは哀しげに紀霊を見ていた。 
 天幕の外に出ると抜けるような蒼が広がっていた。何事かと、兵達が遠くから私達を見ている。敵の処断を見せる事も、私達の仕事なんだろう。

「ねえ、紀霊。下らない話だけど、もしあなたが先に私達の元に士官してたら、どうしたかしら?」
「……本当に下らない話だな。そんなもしもがあったなら、小蓮を人質にやった時点で見限った。もしくは、見限ったと見せかけて、戦えないように片腕か片足を落としてでも袁家内部に潜り込み、小蓮の側にずっと居ただろう。その場合結局は、美羽様と小蓮の為に貴様らを裏切っただろうがな」

 ああ、この女の事が漸く分かった。
 ただ、幼い子供を守りたいだけなのだ。後の世の平穏なんかよりも、先の世を支える次の世代が大切なだけなのだ。自分よりも子供の笑顔を守りたい、そんな優しい女なのだ。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ