残るは消えない傷と
[17/24]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
長きに渡る袁の呪縛は解き放たれた! 今より、この孫策が王となりて長きに渡る平穏を作り出すと誓う!」
膨大な、はち切れんばかりの声が上がった。
涙を流すモノが多く、されども笑顔に溢れていた。
王を讃えて、生の喜びを実感して、己が家族達の幸せを願って。
冥琳は静かに、一人の兵に伝令を命じた。
「伝令。黄蓋、陸遜両名に深追いは無しと伝えよ。本隊が合流するまで曹操軍に協力だけはして貰うが、陸遜の判断にすべて任せる、とな」
一仕事終えた二人は、まだ残してある仕事を終わらせる為に、笑い合いながら陣へと引き返して行った。
そこで死を待つ異常者が、何を考えてるかなどに思考を向ける事も無いまま。
†
黙して語らず。
紀霊は私や思春の問いかけに何も答える事は無い。小蓮の事を聞いても、袁術の情報を聞き出そうにも、瞼を閉じたままで何も言わない。
拷問に掛けましょうか、との思春の提案は即座に切り捨てた。
紀霊はそんなモノで口を割るような女では無い。きっとこの女は姉さまが来るのを待っているだけだから。
それに、もし小蓮の言葉通りに守ってくれたというのなら、辱めを与える事などしたくは無かった。袁家と言えども、紀霊は幾分かまともだったのもある。
しかし最後は殺すしかないだろう。
逃がすと必ず私達の邪魔をしてくる。最悪な不穏分子の芽は早い内に摘みとっておかなければならない。小蓮を傷つける事になろうとも、不義の人と言われようと、である。
待っていると、天幕の外に足音が二つ聞こえ、直ぐにさっと天幕の入り口が開いた。
「……いらっしゃい蓮華。よく、やってくれたわね。偉いわ。さすがは蓮華、と今は言わせて頂戴」
声を聞いたら泣きそうになった。
褒めてくれたその意味は、孫権としてと、蓮華としての両方に対して。私の全てを、姉さまは認めてくれていた。
零れそうになる涙を抑え付けて、どうにか喉から声を引き出した。
「いえ、姉さまもお疲れ様です。向こうでの報告を――――」
「ふふっ。相変わらずかったいわねー。今はいいのよ。あなたと、あなたが絆を繋いだ臣下達を信頼してるわ。思春も、ありがとう」
「当然の事をしたまでです。ですが……」
言いよどむ思春は言葉を区切って顔を歪めた。冥琳は鋭く目を光らせ、眼鏡をクイと持ち上げ、
「小蓮様の事だろう? 大方の予測は付いているが……紀霊よ、お前から話したりは……するつもりがあるか?」
威圧し、突き刺すように声を放った。
瞼をゆっくりと開いた紀霊は……濁り切った瞳を携えながら口の端を吊り上げた。
「愚か者たちに説明してやる。小蓮は袁家の策略によって肥えた豚に慰み者として捧げられるはずだった。が、私と七乃様で止
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ