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乱世の確率事象改変
残るは消えない傷と
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が出来なかったのだ。
 聡く、研ぎ澄まされた感覚によって明は戦場の状態を把握する。負け戦にこれ以上の価値は無く、自身の部隊も逃げ出している事だろう、と。

「あたしの部下だったらもうちょっとマシな守り出来たんだけどなー」
「……孫呉の兵を舐めるなよ、張コウ」
「ふふ、その精兵も随分と減っちゃったみたいだけど? ま、少なくなった兵で劉表との逢瀬を楽しんできてね♪」
「精々短い命を謳歌すればいいわ。万が一長くなっても、私達が止めを刺して上げる」
「はーい♪ じゃあね、血狂い虎。次会ったらちゃんと殺してあげるから♪
 ……紀霊様の身が危険だ! 孫の牙門旗を目指せ! あの方への忠を示す時は今を置いて他に無し!」

 振り返り、明は周りを死守していた紀霊隊の隙間に飛び込み声を上げた。
 即座に紀霊隊の者達は意識が切り替わる。殺されようと、傷つけられようと構わず、遠く見える孫の旗へと無理やり突っ込んで行った。
 そんな中、右往左往している袁術軍の兵の隙間を、いつの間にか明はひょこひょこと歩きながら戦場を抜けて行く。

「孫策様! っ! 御無事で、何よりです」

 周りを味方に囲まれ、ドッと疲れが押し寄せた雪蓮は剣を地面に突き刺してどうにか膝を着かずに済んだ。
 警戒を解かずにその場にて戦場を見やりながら、落ちた体力を回復していると、馬の掛けてくる音が聴こえた。味方が道を開けているという事は、雪蓮の側に寄っても不思議では無い人物。

「ボロボロだな」
「まあね。ちょっと無茶しちゃった」

 雪蓮の耳に響く声は断金の友のモノ。馬から降りた彼女は直ぐに、雪蓮を抱きしめた。

「取り戻したぞ。やっと……やっとだ。あまり心配させてくれるな。
 せっかく取り戻したというのに、あなたが居なければ私はこれからどうすればいいのよ」
「うん……ホント、ごめんね。でもこうして生きてるから。ちゃんと……これからもあなたと一緒に生きる事が出来るから」

 美しい二人の美女が抱き合う姿に、その二人がどれだけ堅い絆で結ばれているかを知っているモノ達は涙をはらりと零した。
 無言で抱き合う事幾分か後、雪蓮はボソリと冥琳の耳元で囁いた。

「紀霊はどうなったの?」
「思春が捕え、縛り上げて陣に移している。紀霊には聞く事が山ほどあるからな。蓮華様も来ているのだが、思春と共に紀霊の監視に向かったようだ」
「あー、シャオの事ね。多分だけど、敵が言った通りだと思う」
「お前の勘だけでなく事実確認はしておいた方がいい。敵の言っていた事が本当なら小蓮様に会わせるわけにはいかんから、監禁か、この場で殺すしかないが」

 すっと身体を離した二人が見つめ合うと、瞬時に、互いが王と軍師に切り替り、

「勝鬨を上げよ! 我らが孫呉の地は取り戻した! 
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