残るは消えない傷と
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得体が知れない。
裏から操られているような感覚は嫌悪感を齎し、反発を助長し、敵意を育てる。
冥琳は一つの解に行き着く。
その人ならざる異端者は……必ず殺さなければならない最悪の敵だ、と。
殺さなければならない証明の一つが目の前の少女。最初期の少女や、その少女を知っている者達からの情報を集めたと言うのに、余りに異質に変わりすぎている。
その異端者の影響力は、大陸全てを動かし、滅ぼしかねない程の猛毒になり得ると判断した。
「理想は甘く、治世を壊す大きなヒビとなり、内か外か、もしくはどちらもから壊されてしまうことでしょう。妥協して仮初めの治世を手に入れる事の愚かしさを、あなただけは忘れないでください」
「……頭の隅に留めておいてやろう。偽りの大徳に伝えておけ。貴様らが乱世の果てに辿り着けるか見ものだな、と」
それは覇王と、黒麒麟に向けての言葉。
今後の大陸の動きを見るに、天下三分が成ったとしても覇王を一つの勢力で打ち滅ぼすには足りず。だから先にそちらを叩き潰す、と言外に伝えた。
冥琳の構図にあるのは天下二分、後の大陸平定であった。
間違わずに受け取った少女は悲哀に一層深く瞳を曇らせ、しかし何も言わずに去って行った。
兵列の隙間に少女と部隊長が消えて行ったのを見送った冥琳は、漸く自身の部隊に目を向ける。
烏合の衆と化した袁術軍、離脱を始めた張コウ隊、そして……大きな勝鬨の雄叫びが上がった孫権隊の前列。
「周瑜様! 敵将紀霊、孫権様に辿り着く前に甘寧様が捕えました!」
思春が戦場に潜り込んでいた事に一寸だけ驚くも、さすがだ、と小さく言葉を零して、
「ご苦労、制圧に切り替えろ。投降を促し、歯向かってくる兵だけ殺せ。武器を完全に捨てるまで間違うなよ。独断行動を行った部隊は厳罰に処す」
御意、と言葉を残して立ち去った伝令の背中を見送り、冥琳は大きく安堵の息を零した。
馬を進ませながら、内心で先程まで言葉を交わしていた鳳凰へと呟く。
――今を生きる命、それを想うを愚かと言い切るか。歪んでるよ、お前も、黒麒麟も、覇王も……そして私も、な。
自身の愛する王にそれを促している自分に自嘲の笑みを零し、孫呉の頭脳は心の負担を積もらせていった。
三角帽子の少女から言われた黒麒麟の幻影により、天下統一への確かな思考誘導という楔を打ち込まれて。
†
「ありゃりゃ? あっちは案外呆気なく終わっちゃったみたいだねー。これからが楽しくなる所だったのにさー」
目の前で息荒く、幾多もの切り傷から血を流し、それでも剣を構えている雪蓮から視線を外し、明はつまらなそうに呟いた。
紀霊隊の隙間から飛び出てきた兵が幾人かいたから、明は雪蓮に大きな傷を与える事
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