残るは消えない傷と
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いるはずです」
心が凍りつく。背筋に冷や汗が伝う。掌がジワリと湿った。
愛らしく首を傾げているはずなのに、少女の声音で笑っているはずなのに……冥琳にはその少女が化け物に見えた。少女の後ろにいる覇王よりも、冥琳はその少女の方が恐ろしく感じた。
もやもやと、振り払いようのない靄が心に掛かるも、冥琳は普段通りの声を紡いだ。
「天下……三分か」
「その通りです。我が主の目指す第一段階は大陸の三分化。善良にして強大な新時代の為政者三人によって、より大きな乱世を。あと、あなたはその先も見据えていると分かっています。確かに伝えましたので、返答はよしなに」
言い切って、もう仕事は終わったとばかりに少女は部隊長にコクリと頷いた。
余りに投槍な交渉の終わらせ方に、冥琳は堪らず声を上げた。
「待て、お前達を信じる事は――」
「出来なくていいです。お好きなように動いてください。こちらは結果で示すだけですから。疑心暗鬼にならずとも、我が主は覇王。一方的であれ約定を破るような事は致しません」
冥琳は眉を顰めた。
だが、もう声を掛ける事はしない。返答をするかどうかすら、その少女は分かっているのだと理解していたから。
戦場を見やる事無く離れて行くのを見つめていると、少女は思い出したように振り返り……漸く、冥琳にも感情の読み取れる瞳が見て取れた。
切なく、苦しく、泣きそうながらも、愛しさを浮かべた甘い色の翡翠が揺れていた。
冥琳はその悲壮溢れる表情をどんな人がするか知っていた。
愛するモノを失った少女が、その人物に想いを馳せている時にするモノ。
だから気付く。それに何かしら問題が起こったのだと。死んでいないのは知っているが、その少女の心を砕きかけるような出来事があったのだと。
「洛陽の復興時に、いえ、多分黄巾の始まりから、天下を割ろうと考えていた人がいました」
慎ましくも消え入るようなその言葉は冥琳の耳を抜け、瞬時に、心が恐怖に彩られた。
信じられるわけが無い。頭が良ければ良いほどに、その異常さ、異質さを理解して、有り得ないと分かる。
少女の言が本当ならばそのモノは、群雄割拠が始まる以前から、誰が伸し上がってくるか分からぬ状態だというのに、割る人間を見極め、大局を読み切り、乱世の中で糸を操り蠢く影であったという事だ。
その中から一番生き残れる可能性の低い王を読み切って、自分の在り方を曲げながらも成長を助けていたという事。そういう風にしか、冥琳や周りのモノ達からは見えない。その少女も同様に。
――それはもう、『人』では無く、我らとは違うナニカだ。
しかしその少女が言うと、それが実際に居るのだとも分かってしまう。間違いなく、一番近くに居たのはその少女だったから。
恐ろしい、否、
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