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乱世の確率事象改変
残るは消えない傷と
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のだから』とのことです」
「……相変わらず遊びが好きなのだな」
「悪戯も好きなようですよ。新参者の私に、あなた方との交渉の全てを任せて下さる程ですから」

 軽く言葉を交わしながらも、冥琳は鋭く思考を研ぎ澄ませていく。目の前の少女をどうにか推し量ってやろうと。
 しかし……冥琳には、その少女の堅く閉ざされた殻の内側を見抜くことなど出来るはずも無かった。
 故に信頼などせず、言われた一つの単語が冥琳の脳髄に引っかかる。

「……交渉、だと?」
「ここで交渉をしませんか? 使者を送ると他の軍の耳が気になりますし、手間も掛かってしまいます。何より、あなた方の軍にも、私と伏したる竜が手を打ってなかったとお思いですか?」

 戦の真っただ中で、互いの部隊を放っておいて……この少女は何を言いだすのかと思ったが、最後の一言に冥琳の頬が引き攣った。
 少女の瞳は、冗談でも嘘偽りでも無いと、真実の色だけを浮かべている。他の軍はまだしも、その少女は劉備軍に今回の事は内密にしておきたいと言っていた。
 予測すれば容易い。『劉』関連の事なのだ。
 劉備軍、劉表軍のどちらにも少女の友が所属していると聞いている。それならば、まず間違いなく二人の龍は関わり合いを持てるだろう。そうなれば理想家の劉備がどんな選択を選ぶかなど予測に容易い。

「内容は?」
「旧きモノ達の滅亡。こちらは袁を、そちらは劉を。軍事行動に於いて互いに協力は無しですが、こちらから邪魔をする事の無い一時的な不干渉というのは如何ですか?」

 孫呉側としては願っても無い事である。
 劉表を滅ぼすまで曹操軍は孫呉の地を脅かさないと言っているのだから。袁家を滅ぼして後に貸しを返して貰いに来たと言われては、せっかく取り戻した地だというのにまた奪われる可能性が高い。劉と曹から侵略を仄めかされては内部の掌握にも大きな支障が出てしまう。
 劉備軍は蜀の地を手に入れるのに時間が掛かるは明白。内部の腐敗を洗い流し、南蛮の対応をしている間に孫呉が劉表と戦う時間はたっぷりとある。
 最善としては劉表に敵討ちを行った後に、機を見て劉備軍に伺いを入れ、落とし処として一時的な同盟まで持って行ければいい。理想家だとしても目の前に迫る問題を優先するだろうと考えて。
 真っ直ぐに見やってくる翡翠の瞳は冷たい。既にそれすら予測している事が分かる。
 目を逸らせば、その少女は冥琳に対して興味を失うだろう。その程度の胆力も、適応力も無い軍師なのだと落胆して。
 冥琳は目を逸らさず、代わりとばかりに目を細めてその少女を視線で射抜く。

「……それほど曹操は袁家との戦を邪魔されたくないのか」

 一寸返答に悩んだ冥琳を少女は見逃しはしなかった。

「ふふ、美周嬢と称されるあなたなら、本当の狙いに気付いて
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