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乱世の確率事象改変
残るは消えない傷と
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返すつもりなど毛頭ない。政治的な駆け引きは冥琳の仕事。如何に上手く袁家側から今後有利となるモノを引き出せるかが肝となる。
 都合が悪ければ殺せばいい。小蓮の事を確認するだけでも、冥琳達にとっては最優先の事柄であるのだから。
 汚い仕事も軍師の仕事。須らく、それはどの軍にも言える事であった。

 幾分か後、ふいに銅鑼の音が鳴った。
 聞こえた先は後方から、振り返り確認した旗は鳳と……徐、前の戦とは違い、新緑色に染め上げられた鎧を纏ったそれは……袁術軍にとっての絶望の代名詞。
 それらから鬨の声は上がらない。雄叫びも上がらない。黙々と、圧倒的な圧力を伴って進軍して来ていた。静かな怒りがあった。収束された剣……否、角のような怨嗟があった。
 恐ろしい、と孫呉の兵は生唾を呑み込む。その部隊が自分達と同じような「人の群」とは思えなかったから。
 ほっと安堵の息を漏らした冥琳は、急ぎ、兵に一つの指示を出す。

「我らが王の元へ馳せ参じよ! 孫呉の勇者達よ!」

 彼女は、張コウ隊を徐晃隊に任せ、残りの部隊を小覇王救出の為に当てると決めたのだった。
 冥琳にとっては嬉しい事に、袁術軍の兵達はその新緑の部隊を見て浮足立っていた。狼狽える兵が見える。逃げ出す兵も見える。もはや戦況は完全に引っくり返った。
 いきなり引いた孫策軍の行動に張コウ隊は大きな隙を作られる。
 率いる将が居ないというのはそれだけで対応が遅れるモノ。死兵の集まりである張コウ隊でも言うまでも無く。
 急速に変化していく戦場に着いて行けず、いきなり孫策軍の後ろに現れたような新緑の部隊から……張コウ隊はもろに突撃を喰らってしまった。
 一瞬だった。初めの衝突だけで敵は怯んだ。精強なはずの張コウ隊が、真正面から単純に、一列ずつ、乱れの無い連携連撃で減らされていく。

――黒麒麟は居ないのだろう? 敵の心理を攪乱する為にわざわざ徐晃の旗を出してきたのか。鳳雛、やはり侮れんな。ただ、今回は助かった。

 目の前を突っ切っていく徐晃隊に、味方であればこれほど頼りになるのかと思いを馳せる冥琳。
 兵士と共に馬に乗って、最後方で追随していく三角帽子の少女はボソリと口を動かし速度を緩めさせた。そして冥琳は、ソレと目を合わせてしまった。
 なんら光の感じ取れない凍りつくような瞳。見た目幼い少女であるのに、冥琳は飲み込まれてしまう。

「周瑜さん、ですね。袁家の本陣離脱と袁紹と顔良の部隊到着の報告が我が軍に入りました。曹操軍で私達以外の兵は全てその対処へと向かいましたが、主から言伝を預かっております」
「……曹操殿から?」

 気圧されるなと無言で呟き、冥琳はどうにか言葉を紡ぐ。

「はい。『利息は払う。お釣りには利息を付けなくていい。どうせ全てを丸ごと買い取らせて貰う
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