残るは消えない傷と
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まった蓮華も同じようにされればどうなるか。
身体を欠損し、殺されずに見逃されたならば、二人は王としての信頼を保っていられない。
そうなれば幼い小蓮を立てるしか無くなり、明の言の通りならばやっかみ事が増え……孫呉は容易く崩壊する。袁家との同盟という最も嫌悪するカタチも有り得る。
または、袁家のように、嫌っていた七乃のように、傀儡という手段を用いて、孫呉の地を治めなければならなくなる。
そして、もし殺されたとしても同じ事。信じたくは無いが、小蓮が長く袁家の思想に染められた……という事態も考えなければならない。
これらが待ち望んだ平穏であろうか。
生かされても、殺されても絶望の未来しかない。この場での敗北とはそういう事なのだ。
思い至った事態に、負ける事は許されないのだと心を固めた雪蓮は、自身の攻撃的衝動の全てを守りに向け始める。
それは友への信頼から。美周嬢ならば、必ずこの窮地を変えてくれるのだと信じて。
そうして……短く息を吐いた雪蓮は、残虐な笑みを浮かべて肉薄してきた狂人とのじゃれ合いに引き摺り込まれていった。
†
蓮華の参入は大きく戦況を動かした。ジリ貧で徐々に圧されていた孫策軍の陣容が盛り返した。
兵達を先導する姿はまさしく王。冥琳の心は、王の後継の成長に心を高鳴らせていた。
「長きに渡る雌伏の時も、今ここで漸く終わりを告げる! 後少しだ! 命を惜しむな! 名を惜しめっ!」
続々と敵兵へと向かっていく兵達は目を爛々と輝かせ、己が王の命を忠実に遂行する為の一部となっていく。
ふいに、目の前の幾つかの部隊に対する圧力が強くなった。
斬り飛ばされる腕、頸、身体。血霧が舞い、砂塵が一層巻き上げられる。
その光景は既に経験している。たった一人の強大な武人が戦場を蹂躙していく合図である。
「私は此処にいるっ! 我が精兵達を越えられるなら越えて見よっ! 紀霊っ!」
蓮華は大きく声を張り上げた。囮として、自分を使う為に。
何を……と考える前に、冥琳は遠くから視線を感じた。
蓮華がこちらを向いている。真っ直ぐに、射抜くように。遠くとも何故かよく見えたその瞳は信頼の色。
――ああ、蓮華様は私を信じて……紀霊を無力化しろと言っているのだ。
ぶるり、と無意識の内に震えたのは歓喜から。王に信を向けられるというのは、臣下にとって何にも勝る力となる。
「二番から四番までは右翼に突撃を行えっ! 紀霊を……捕えて来い!」
討ち取れ、では無く捕えろ。その命の意味は、末姫に対する事実確認と、袁家側へ交渉を齎す為に。既に逃げた袁術を捕える事は困難だと冥琳は判断していた。
紀霊ほどの武人ならば身柄の行く末は政治の道具と為せる。もちろん、ただで
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