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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十九話 盤面は掻き乱れたまま払暁を迎え
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る大辺も絞め殺されそうな声だった。

 ――予想はしていたが、俺はまたしても〈帝国〉軍を甘く見ていた。夜間と云えど〈帝国〉の情報伝達能力は高い水準を保っていた。旅団本部壊滅から三刻もかからずに対策を打ってくるとかあり得ないだろ、常識的に考えて。
 馬堂中佐が目を覆い、瞼を軽く揉みながら小声でぶつぶつと呟き始めた。
「奇襲は不可能――臨戦体制に移行――師団司令部の護衛――逆包囲のリスク――いや、第三軍の攻勢を待てば――予備部隊の動きが――?」
 幕僚達が無言でその呟きに耳を傾ける。彼らの部隊長の言葉は断片的にしか聞き取れないが、考えがまとまりつつある事は理解できた。
「支隊長殿、宜しいでしょうか?」
 豊久が再び目を外界に晒したところを見計らい、石井戦務幕僚が手を挙げた。
「勿論、宜しいとも。」
 支隊長として豊久は意識して唇をねじ曲げる。
――不安も不満も今は押し殺してみせねばならない。気落ちした幕僚達が口をつぐむようになったらお仕舞いだ、何もかも。

「首席幕僚殿のおっしゃった通り、海岸堡への迂回強襲を提案します。我々の戦力を消耗させるならば、兵站・指揮の大本を破壊する事にかけるべきです。近衛と共同する事で成功可能性が高まります。
帝族を討ちとり、海岸堡の物資を焼くことができれば敵軍の士気をくじく事も出来ます。
近衛の浸透部隊と合流する事に成功すれば頭数も八千弱となり北部に展開しているであろう<帝国>軍の騎兵師団を拘束する効果も期待できます」

「――ふむ」
興味深そうに顎を撫でながら支隊長は意見の評価を行うべく再度、思考を巡らせる。
 ――確かに現地の情報に基づいて独自の行動を行える柔軟性をもっている事は我々の強みである。 些か独断専行ではあるが、旅団本部を殲滅できた以上、第三軍の攻勢を陽動にし、本営へしかけるというのも有りだ。
「それも選択肢の一つではあるが――」
 脳内で弾き終わった算盤を眺め、豊久は判断を下す
 ――深入りすると撤退が危うくなる。師団司令部に騎兵聯隊が居るとしたら騎兵師団が本営の防衛部隊に回されるとしたらどうあがいても包囲殲滅だ。近衛の戦力には期待するべきではない。そもそもからして新城が仮にも中央を守る筈の主力銃兵部隊を引き連れて浸透作戦を行っている時点でお察しだ。もっとリスクの少ない策が欲しい。できるならば近衛衆兵達にとっても

「――現在、判明している<帝国>軍部隊の配置を確認する。上砂、第三軍司令部に攻撃開始の時刻の確認を急いでくれ。
戦務と兵站は各大隊の装備・戦力を再把握。小半刻後には指揮官集合をかける」
 支隊本部の面々が、それぞれ与えられた指示をこなすべく、導術兵を呼びつけたり、手持ちの地図を取り出し、覆いをつけた角灯の下に張り付くように地図を引き寄せたりとしている姿
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