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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十九話 盤面は掻き乱れたまま払暁を迎え
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が、その若き少将を見送る初老の准将の顔は渋いものであった。
「閣下、能力はともかく人務上の問題となります。好ましいものとはいえません」
 あからさまなまでの愛人優遇は公正な信賞必罰に反するものである。
「シュヴェーリンの件に、旅団本部の件、二度も変事が続いている。
クラウス、私は都合の悪い偶然は疑う事にしているし、それが二度続いたら行動すると決めているの。ただの偶然だったらシェヴェーリンはその内戻ってくる筈。
でもただの偶然ではなかったら、あの猛獣使いが入り込んでいると
考えるべきよ」
「だから北領で猛獣使いと戦闘経験があるカミンスキィを、ですか」
メレンティンは溜息をついた。彼が慈しむ美姫へ反論ができない事は悲しいことにいつもの事だ。
「――猛獣使いね。彼も来るかしら?いえ、来るでしょうね。こんな博打を打つなんて不本意なのでしょうけど、でも愉しんでいるでしょうね、彼」
「一国を背負って夜を駆ける……羨ましくもありますな。とはいえ上手く事を運ばせるつもりはありませんが」
 ユーリアとメレンティンが声を上げて笑う。



同日 午前第四刻 海岸堡より約二里 第21東方辺境領猟兵師団司令部


「第一旅団司令部は健在なのだね?」
 新たに師団長を任じられたカミンスキィは即座に師団司令部の機能を復旧させ、被害状況を確認し対応策を構築した。シュヴェーリンたちが構築した騎馬伝令網は司令部が平静を取り戻すのに比例して状況を再掌握しつつあった。
 既にカミンスキィは第二旅団司令部の壊滅を察知し、第一旅団の防衛線を縮小させ、払暁に再開されるであろう第三軍の攻勢へ備え、第二旅団の残存部隊を師団直轄とする旨を告げていた。

「はい、閣下 聯隊本部は健在です。 既に伝令が確認をとっております。」
「プレハノフ君! 胸甲騎兵聯隊は?」
「既に護衛配置に着いております。」
 胸甲騎兵聯隊の聯隊長代理を任じられたプレハノフ中佐が応える。

「よろしい!大いに結構! 諸君!我々が為すべきは、指揮系統の確保だ。
敵の浸透部隊は確実に砲を持たない部隊であり、日が昇れば我々の有する火力を持って掃討を行うことで全ての問題が解決する。我々は直轄部隊を集結させ燭燐弾によって視界を確保させよう。それであと僅かである払暁までの時間を警戒していれば良い」
 アルター参謀長は少なくとも有能さを新たな師団長が示した事に安堵した。
「既に軽臼砲による打ち上げは既に用意しております。
第一旅団から一個大隊を呼び戻せば師団司令部の備えも万全になるかと」

「いや、やめておこう。第ニ旅団だけでは保たない可能性が高いからこそ第一旅団の防衛線も緊縮させたのだからね。それにだ、アルター君!胸甲騎兵聯隊を侮ってはいけないよ。
こうして支援と灯りを整え
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