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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十九話 盤面は掻き乱れたまま払暁を迎え
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かくして彼らも勝利を得るべく営々と動いていた。


同日 午前第三刻半 龍口湾〈帝国〉東方辺境鎮定軍海岸堡
〈帝国〉東方辺境鎮定軍本営

本営にて騎馬伝令を受けた軍参謀長であるメレンティン准将は即座の状況判断で総司令官を起こしにやらせた。
運ばれてきた伝令の内容は、わざわざ帝族にして〈帝国〉陸軍元帥を起こすべき事ではない筈だが。彼はその畏れ多いとも称されるべき行動になんの疑問も抱かなかった。
「状況は?」
ユーリアは天幕に入ると矢継ぎ早に状況の把握を明晰な口調で求め
る。先程まで就寝していた痕跡は、僅かに乱れた髪でしか見て取れない。
彼女がカミンスキィを伴っているのを見てメレンティンは眉を顰めたが直ぐにそれを打ち消し、彼の主が求めている報告を行う。

「師団長の第21師団司令部から師団長が行方不明との伝達が一刻前にありました。
更につい先程、第21師団第二旅団からの定時連絡も途絶えており、確認に出した騎馬伝令も未帰還です。
この事態を受け、師団司令部は早急に師団長代行の任命を求めております。」
ユーリアは考えを纏めようと眼を閉じる。
――何が起きた?
ユーリアの直観は即座に答えを返す
――敵は猛獣使いの部隊を浸透させている。それしか逆転の目が無いのだから、そう考えるべき。なによりクラウスはその可能性を捨てられないからこそ私をここに呼び出したのだから。
――規模は?
――旅団本部と護衛大隊を通報する間もなく潰せる規模。つまり、猛獣使いを少なくとも二個大隊――それもかなりの距離を既に浸透している、それを可能にしているのは背天ノ技。
考えをまとめ、微笑みながらユーリアは目を開く。
――やってくれたわね。つまり、私達は半身不随に追い込まれつつある――あわよくば此処までくるつもりね。さて、不埒者達をどうしてくれましょうか。
 戦姫は彼女を囲む歴戦の将校達に何も不足を感じておらず、何の疑いも挟まず自由に動けるなかで最も頼りとする青年に視線を送った。
「師団長代理を任命します。アンドレイ・カミンスキィ大佐」

「はい、閣下」
戦姫の発令に対し戦姫の恩寵厚き大佐も対となる絵画のように礼を捧げる。
「貴官を少将に仮任命する。シュヴェーリン少将の消息が判明するまで第21師団の指揮
を代行するように。
敵兵力の浸透の可能性が高い為、貴官の指揮下にあった第3東方辺
境領胸甲騎兵聯隊は一個大隊を本営直轄として、現行の任務である
本営警護を続行。
聯隊主力は第21師団司令部直轄として同師団に編入する。復唱の必要はないな?」

「はい、閣下。バルクホルン少佐の第二大隊を残します」

「急ぎなさい。良き報告を待っているわ」
柔らかく微笑して姫は騎士を送り出し、騎士も壮麗な敬礼を捧げ、天幕を退出した。

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