V マザー・フィギュア (3)
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食に興味がないんだろうと思った。
本当にそうなの?
考えを最初に戻してみろ。あのナルはあたしの知ってるナルじゃない。家族の仇を10年も一心不乱に追ってきた男だ。
極端に食べ物と調理器具のないダイニング。未開封の引越し荷物。個人の持ち物が並んでない部屋――
「帰らないつもり、だったの?」
何もかも、彼がここを「家」じゃなく「住居」としてしか見なしていないことを示してるみたいで。
そうだよ。ジーンが殺されたってことは、ナルだってもちろんそうなる可能性はあるわけで。むしろ、修業してるって言ったって、学者と陰陽道のプロじゃ戦って負けて殺される確率のほうが高いじゃないの。
ぺたん、と冷蔵庫の前で床に座り込んだ。
じわじわ視界がにじんでく。あたし、泣きそうなんだ。だって。だって。分かっちゃったんだもん。
自分が手を汚さなければ自分を守れないケースもあるんだ。
「……ウソツキ」
だったら何であたしを庇った。匿った。危険だと分かってて外出した。
あたしを守るために貴重な法具を使い捨ててくれたナル。
日高を殺すって発言に怯えたあたしから距離を取ったナル。
――どうやったって、あたしの好きな人。
麻衣は僕が黙って日高に殺されるのを待てと?
それはつまり、何もしなきゃあのナルのほうが死んでしまうということ。
あたしのナルとは違うけど、でも、ナルが死ぬことはすごく悲しい。あってほしくない。だから、泣きそうなんだ。
……あたしは、バカだ。
「あたし、ほんとにナルが好きだなあ」
今になってそんな当たり前のことに気づくなんて。
好きだから、死んでほしくない。
死なせないために、安部日高って女が代わりに死ななければいけないなら、あたしがどっちを取るべきか、最初から決まってた。
「こんな簡単なことも分かんなかったなんて」
立ち上がる。冷蔵庫から野菜とお肉を引っ張り出す。
謝るのは、ちょっと無理っぽい。やっぱり人殺しはイケナイコトだから。謝ってあげられなくてごめんね、ナル。
それでも、あたしはあんたが好きだから、あんたを生かす側に回るよ。
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