P.T.M
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考回路が似通っているのなら、既にこの時点で彼女の方も事態に気付いているという事だ。つまり彼女もまた跳躍が先に来ることに気付いた。気付いたうえで、時間制約内に万が一両方が焦って飛んだ場合は共倒れ似るという事実に気付いたのだ。
(フェイントをかけ、相手を飛ばせるか?いや・・・)
(もしも、もしも向こうもまた同じことを考えていたとしたら?)
(いや、考えているな、あの焦り方は。私も、困っている)
(駄目だ、何か・・・何か私と相手との間に―――)
(何かこのシチュエーションに於いて決定的に行動を別つような―――)
((決定的な思考の違いはないのか!?))
何か別つものは。
誕生と死のように。
太陽と月のように。
陰と陽のように。
右と左のように。
男と女のように―――男と、女?
≪0,3秒経過≫
両者ははっと息を呑んで互いの顔を見た。―――あった。たった一つの光明。
(彼女にそういう意識があるのなら・・・)
(彼がそれに気付いたのなら・・・)
瞬間、運命が変動した。
彼は踏み出した脚の膝を曲げて体を縦に沈ませ、曲げた足のばねを解き放った。身体が宙を浮き、美しい曲線を描く前転で跳ね、ガードレールのポールに着地した。彼はそのままポールを飛び降りて自らの目指す道へと戻る。
僅かに遅れ、彼女は踏み出した脚を沈め、地を這うような低さでつま先の地面を蹴り飛ばした。彼女の上を彼の影が通り過ぎたことを確認し、一口トーストを齧りながら体勢を立て直し、元の進行ルートに復帰する。
((これが・・・正解・・・ッ!))
跳躍して空を選んだ彼と、疾走絵を続け大地を駆けることを選んだ彼女はすれ違い―――その先の道へと、運命を乗り越えた先へと降り立った。
考えてみればどちらが下でどちらが上を選ぶかなど簡単な事で、単純に「スカートがめくれ、中身を見られるリスクを冒してまで彼女が飛ぼうとするだろうか」という考えの元、彼は跳躍した。そして彼女は、そんな彼がその事実に気付いてくれると信じて下を行った。
―――この間、1秒の出来事である。
僅か1秒の間に・・・両者の間に信頼関係と呼べるだけの関係が形成されたのはもっと短い時間でしかない。果たしてそのような刹那の間に行なわれた寸毫のやり取りで、人は分かり合えるものなのだろうか。未だかつて、これほど短い邂逅で相手を信頼できる人間がいるだろうか。それは運命といった生易しいものではない、奇跡。
両者は振り向かなかった。互いの姿を確認することも、名前を確認することも無かった。彼は家に忘れ物を取りに行くのに忙しく、彼女は学校へ向かうのに忙しかったからだ。わずか一秒の意思疎通はその瞬間に終了し、彼らは自分の時間へと戻っていった。
彼らの時間間隔はきっと、
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