第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第三話
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ファ・ユィリイは、自販機の前にいた。
集中してレポートを仕上げようとは思っていたが、人間の集中力はそれほど長く続かない。
気分転換にと、外の空気を吸いに出てきたのだ。
図書館は入り口のところがロビーのように広くなり、レストスペースにもなっている。
――ガコンッ。
ユィリイがボタンを押すと、ソフトドリンクが派手な音をたてて存在を主張する。二十世紀から変わらない販売法。パッケージはリサイクルボディになっても、いつでも買えるという無人販売機は何処にでもあった。東洋の小さな島国で発達した無人自動販売機は、宇宙世紀のコロニーでは一般的な販売方法になっている。それは治安の向上がもたらしたというよりも、貨幣がなくなり、電子マネーが中心になったことが一番関与している。つまりは、『自販機を襲ってもお金を取り出すことが出来なくなった』ということだ。
「……ふぅっ……」
疲れた。たったあれだけの文章を書くのにどうしてこんなに疲れるのだろう。
閉塞感?
寂寥感?
ユィリイは自己分析をしてみる。だが、自己分析をするまでもない。さっきのティターンズの一件が頭から離れないからだ。
そんなことよりも議題レポートを早く仕上げて、教授に提出しなければならないのに。
もうすぐ夏休みなんだから旅行にでもいってきたらと言ってくれた両親には申し訳ないが、何処にも行く気はしなかった。チアの集会にも顔を出していないし、そこに行っても煩わしいだけ。よってくる男たちを上手くあしらえる自信もなかった。
夏休みの前にはゼミのレポートを仕上げてしまいたかった。このレポートを仕上げてしまえば、この単科だけでも飛び級だって夢じゃない。そうすれば、就職に有利なのは明らかで、諦めかけていたリポーターの夢だってもう一度追いかけられるかも――そんな風にだって考えていた。
「……こちらです」
視線の端にさっきと同じ軍服を捉えた。
身が硬直する。さっきの軍人とは違う。違うけれど、何故、ティターンズが図書館に?
査閲かもしれない。
でも、なんで……?
とっさにユィリイは自分が論文のウィンドウを閉じていないことを呪った。
図書館はリベラル派の根城になりやすい大学とは違って公安やティターンズからはマークされてにくい場所だ。実際、公共施設であるが故に軍人が査閲に立ち入ることはほとんどない。今までだって、一度も見かけなかった。だからこそ安心して論文を書いていたのだが、うっかりすぎたったかもしれない。
司書にだってティターンズのシンパが居るかも知れなかった。
(急いで戻らなきゃ……)
走って注意をこちらに向けさせないよう、ゆっくりと静かに席に戻ろうとした。様子を窺うとガラス越しに映る軍服は、司書に案内されながら、司書室の方へ消えた。
向かった先が、自分
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