第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第一節 前兆 第二話
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――カチカチカチカチ。カチカチッ。……カチカチカチカチカチ。
静かな読書室に乾いたキーパンチの音が鳴る。時折休む音は、思索にふけっているのだろうか。
「二十世紀初頭、人類は二度の世界大戦を経験することで、軍事的対立の愚かさを悟りつつ、抑止力としての軍備拡大を行い、それが東西の二大国家による冷戦構造を生み、次第に経済戦争へと移行していきました。
それまでの国家戦争は影を潜め、局地紛争に終始したこの世紀はパックス=アメリカーナと呼ばれ、アメリカ主導の国際連合による国際調和の時代でしたが、二十一世紀に入り、アメリカの独走が激しくなると、東の大国であるロシア連邦や欧州連合とゆるやかな対立をするようになっていきました。
さらには、国際連合における常任理事国枠の拡大に、インド、日本、ドイツ、ブラジルが加わることで、アジアにおける中国の影響力が、内乱における自治区の独立によって低下することで、アジアはインドを中心とする経済圏・日本からオーストラリアを中心とする経済圏と中国を中心とする経済圏に分裂、ヨーロッパ経済圏、アメリカ経済圏に集約していきました。
しかし、この経済発展に乗り切れなかったのが、西アジア諸国とアフリカ諸国を中心とするアラブ経済圏の諸国でした。このことが、後の分裂主義組織がアラブ諸国を中心に発足する遠因であったといえます。」
そこまで書いて筆を休める。ふと窓の外を眺めると、図書館の庭に繁る木々が木漏れ日をつくり、恋人たちだろうか、若いカップルがレジャーシートを拡げて戯れている。
羨ましい。純粋にそうは思うが、ボーイフレンドを作る気にはならなかった。こんなにもカミーユが自分の心を占めているなんて、ハイスクール時代には思いもしなかった。だから、今は―――
「これに加え、かねてより回復傾向にあった、先進諸国の人口増加率が、地球全体での食料問題を現出させました。国際協力において、先陣をきったのは日本をはじめとするアジアであり、その技術力の結晶がアフリカの大地を蘇らせる『緑の革命』です。
しかし、食料問題を解決するための『緑の革命』は結果としてアフリカ諸国に人口爆発のきっかけを与えただけに終わってしまいました。つまり、農業生産力の向上は、労働力の拡大でもあり、発展途上国は先進的大農業体制をくむことができず、労働人口の拡大こそが農業生産の拡大になったのです。
このことで、二十一世紀後半には地球の人口は九十億人に迫る勢いで増加していきました。
この状況を受け、『二十二世紀には人口増加が極限に達する』と考えた国際連合の常任理事国は、全世界に緊急事態宣言を行い、『人口増加問題会議』を開催。翌年、『人口問題解決委員会』は人口増加に対する積極的な解決策がないとしながらも、『惑星規模の統合政府による宇宙進出であれば解決に繋がるのではな
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