暁 〜小説投稿サイト〜
まぶらほ 〜ガスマスクの男〜
第十話
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に歩み寄ると、膝を折った。


 染み一つない綺麗な両手で俺の手を包み込む。


 不思議と、恥ずかしいという感情は浮かばなかった。


「昔は運命なんて信じていませんでしたが、今は信じます」


 リーラの手はまるで彼女の心のように温かった。


「ご主人様が私を導いてくださった……。あの時、ご主人様と出会っていなければ、今の私はいません。
 私は――リーラ・シャルンホルストは……貴方様に出会い、貴方様にお仕えするために生まれた……。心からそう思います」


 優しく、そして嬉しそうに微笑むリーラに、熱い感情がこみ上げてきた。


 腹の底から叫びたい、心が突き動かすまま言葉にしたい、そんな衝動。


 気がつけば、彼女を抱き寄せていた。


「ご、ご主人様……?」


 戸惑った声を漏らすリーラ。しかし誰よりも戸惑いを見せているのは他ならない俺自身だった。


 物心がついてこのかた、異性と接触したことは家族しかおらず、ましてやマスクを着用し始めてからは皆無だった。


 発作があるため、手を触れるならまだしも抱きしめるなどありえない。


 しかし、現になんの弊害も無く、彼女を腕の中に抱き留めている。


 リーラは嫌がる素振りを見せず、むしろ身体を寄せてきた。


「ご主人様の体、温かいです……」


 うっとりしたようなそんな声音。


 ジワジワと理性が削られていくのがわかった。


 今、彼女を求めても拒みはしないだろう。そんな確信にも似た考えが浮かんだが、意志の力で跳ね除ける。


 せめて伝えるべきことは伝えたい。


 それがケジメであり、道理だと思う。


「……リーラ」


「はい」


「俺も、リーラのことが……好きだ」


「…………はい」


 涙交じりの声。はっきりと返事が返ってきた。


「私も、ご主人様のことをお慕いしております」


 見詰め合う二人。


 黄金色の瞳はうっすらと浮かんだ涙でゆらゆら揺らめいていた。


 そっと指で拭うと、恥ずかしそうに微笑んだ。


「愛しております、ご主人様……」


「好きだよ」


 それ以上、言葉はいらなかった。


 重なり合う唇は柔らかく、脳髄が蕩けるような甘美な刺激が走る。


 熱い夜が始まった。


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