第十話
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あれは十三年前の夏のことでした。
当時、七歳だった私は見習いメイドとしてとある館で働いていました。
――え? ああ、はい。メイドになったのは五歳の時でしたね。私の母もメイドを勤めておりまして、母に憧れたのが切っ掛けでした。
今でこそメイドを束ねる立場にありますが、当時見習いだった私はなかなかメイドの仕事を覚えることが出来ず、しょっちゅう教育係であった母に叱られました。
見習いメイドは三年掛けてメイドのイロハを覚えます。最初の一年で心構えと振る舞いを、二年目で技法を、三年目で経験を積むのが一般的なのですが、私は他のメイド見習いの人たちに比べ成長が遅いほうでした。
――……はい。当時は今のエーファより、ですね。あの子も頑張ってはいるのですが……。……コホン、話を戻しましょう。
ある日、当時のご主人様のご友人に粗相を働いてしまいました。
母にきつく叱られ、いつまで経っても成長しない自分やメイドの仕事にも嫌気が差して館を飛び出したんです。
雨が降っていたにも関わらず傘も差さずに慣れない街を我武者羅に走り、たどり着いた先は小さな公園でした。
夜だったこともあり人気はなく、公園には私一人しかいませんでした。
少ししたら母たちが迎えに来る。そう思った私はブランコに揺られていましたが、いくら待っても迎えに来ません。
見知らぬ土地で帰り道も分からない私は雨に打たれながら心細くなり、泣きそうになるのを堪えて膝を抱えてしました。
そんな私に声を掛けてくれたのが、一人の男の子だったのです。
――はい。当時四歳だったご主人様です。
男の子は私より幼く、持っていた傘に入れてくれると「どうしたの?」と聞いてきました。
誰かに聞いてほしかったのでしょう。私は胸の内に溜まる不安や鬱憤を男の子にさらけ出しました。
仕事がつらい、母が厳しい、期待に応えられない自分が嫌い。男の子は静かに私の愚痴を聞いてくれました。
すべて吐き出した私はメイドにあるまじき行為をしてしまった自分に嫌気が差し、ますます自己嫌悪に陥りました。しかも自分より幼い男の子に打ち明けたんです、男の子にもつまらない話につき合わせてしまい申し訳ない気持ちになりました。
しかし、男の子はニコッと笑うとこう言ってくれたのです。
「じゃあぼくがおねえちゃんをえがおにしてあげる! ぼくはせかいいちのまじゅつしだから!」
その時は男の子の言っていることを理解できませんでしたが、彼が私を元気付けようとしてくれているのだとは分かりました。
しかし、心がささくれていた私は男の子言葉を受け止める
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