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銀英伝小品集
ゾンバルトの宣撫工作
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星の配置であるという占星術師の見解を信じようという心境にすらなりかけていた。
 『正義を愛する自由惑星同盟市民の諸君に問う!現在の同盟政府は、数百億の人民の生命を預かるに値する存在であるか。諸君が生命と忠誠を捧げるに値するか!』
 ヤンですら、驚嘆を禁じ得なかった。帝国のローエングラム陣営にはなんと多彩な人材のあり、用いられてあることか。人材が適材適所に用いられるということにおいて、同盟は帝国に遠く及んでいない。このゾンバルトという士官に匹敵する弁舌の才を持った人間が同盟にいたとして、有効に用いられるとは到底考えられなかった。
 『我々銀河帝国は、もはや諸君を叛徒と呼びはしない。諸君は不正義と不公正に苦しむ受難者であり、かつての同朋である。我々は同朋たる諸君を、悪逆無能な政府の支配から救いたいと熱望する!』
 「完璧だな。ローエングラム公は一兵も失わずして、数百の星系を手中に収めることだろう」
 「第148補給基地で反乱が発生しました。司令官のダールトン大佐は戦死、基地は反乱部隊の手に落ちたとのことです」
 暗澹たる未来を裏付けるフレデリカの報告の間にも、ゾンバルトの熱弁は続いていた。
 『一時の過ちは誰にでもある。まして、諸君はなんら過ちを犯してはいない。諸君が罪に問われることはないと我々は約束する。我が同胞、市民諸君。胸を張って帰参せよ』
 「オーデッツあたりじゃ、手も足も出ないな、このゾンバルトという士官。理論の精度はともかく、民衆を熱狂させる才能という点ではトリューニヒトにも勝るとも劣らない」
 「やっぱり、正面から殴り合うしかないのか」
 「それも不可能になるかもしれんぞ」
 パトリチェフに向けたムライの声ははっきりとしていたが、不安を隠しおおせてはいなかった。
 「この一両日で百隻単位の脱落艦が出ております。今日死ぬよりは、たとえ一日でも生き延びたいというのは人間の本能なのでしょうな」
 諦めた様子のムライからデータを受け取ったヤンにできることは、一時撤退を命じることだけだった。
 戦わずして八千三百隻にまで数を減らしたヤン艦隊がさらに四割を喪失し、ヤンが敗者としてラインハルトの前に立つまでに要した時間は、一カ月と十日であった。
 それは自由惑星同盟の瓦解に要した時間にわずかに勝るだけであったと、後日ヤンは自らの筆で記している。
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