第五章
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第五章
「もうこのまま帰ろうかって思っていたしな」
「危ういところじゃった」
「しかし最後の最後で間に合って何よりだった」
「ああ。しかしよ」
だがここでまた留蔵は言うのだった。
「遅れた分はちゃんとしてもらうぜ」
「うむ、承知しておるぞ」
「それではな」
鬼達は留蔵の言葉に頷くとそのまま姿を消した。留蔵は彼等が消えたのを見届けてからにやりと笑った。そしてそのまま一人呟くのだった。
「じゃあ見せてもらうとするかい。そのツキってやつをな」
そのうえで賭場に戻った。皆相変わらず丁半に徹していた。
「おう、留さん」
「戻って来たかい?」
重さんと熊さんが留蔵に声をかけてきた。二人も酒と鉄火巻きを楽しみながら丁半に興じている。そのうえで彼に声をかけてきたのである。
「といってもこれで帰るんだよな」
「そうだったよな」
「いや」
だが留蔵は不敵な笑みを浮かべてそれを否定した。
「気が変わったぜ」
「おや、やるのかい」
「珍しいね」
二人は留蔵のその言葉を聞いて意外といった顔を見せた。
「あんたが負けが込んでいてもやるなんて」
「一体どういった風の吹き回しだい?」
「ツキが戻ったんだよ」
その笑みで二人に述べた。
「肝心のツキがな。戻ったんだよ」
「戻ったのかい」
「ああ。だからやるのさ」
また言った。
「もう少しな」
「おやおや。それじゃあよ」
「ほら、これ」
重さんが杯を差し出してきた。もうそこには酒がなみなみと注がれている。
「楽しくやろうな」
「あとこれもな」
「もう、すまねえな」
熊さんは鉄火巻きを出してきた。この二つは欠かせなかった。留蔵は元の席に腰を下ろすとその二つを受け取って飲み食いしながらさいころに目をやった。丁度今終わったところだ。
「あれ、旦那」
ここでさいころを操るやくざ者が留蔵に気付いた。この辺りを仕切っている組の若頭できっぷのよさで知られている。短く刈った髪にさらしと着流しが実によく似合っている。
「もう帰るんじゃないんですかい?」
「気が変わったんだよ」
こう若頭に言葉を返した。二人は馴染みなのだ。
「ちょいとな」
「じゃあやるんですね」
「おうよ」
また笑って彼に言葉を返した。
「やらせてもらうぜ。いいよな」
「ええ、こっちとしてはいいですよ」
若頭はさいころをふるいの中にしまいながら彼に答えた。
「こっちとしちゃお客さんが多いに越したことはないですからね」
「それもそうだな」
「そういうわけで。それじゃあ」
「ああ。はじめるんだな」
「そういうことです。それじゃあ皆さん」
若頭はあらためて一同に目をやって言う。
「よござんすね、よござんすね」
「おうよ!」
「さあ、やってくれな」
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