入り混じるは想いか欲か
[11/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
立ち続けてきた雪蓮に許されないモノである。
挑発が効く事を願って、声を上げようとしたその時、冥琳の部隊が動いた。
蜂矢陣での強引な突出。意図は……袁術軍全ての攪乱だった。
――さっすが冥琳。私がしたい事をよく分かってくれてる。
ふっと微笑みを漏らした雪蓮は、すっと南海覇王で利九を指し示して、声を張り上げた。
「己が正義というのなら、その刃で我が首を討ち取ってみせよ! いや、出来んだろうな……貴様は今の今まで戦場に立ちもせず、やっと立ったと思えば、こそこそと奇襲しか行えぬ臆病者でしかないのだから!」
不敵な笑みでの挑発に、利九は昏い闇が渦巻く瞳を向けて……にやりと笑った。
「不意打ちを仕掛けようとした貴様らに臆病者呼ばわりされる謂れは無いが……そんなに死にたいのならば、戦ってやろう。道を開けろ」
ゆっくりと、道が開かれていく。
口々に兵達が紀霊と孫策の名を呼び、激励を飛ばし合う。
正式な一騎打ちの場となり、丸く切り取られた空間に二人は馬を進めて相対した。
「ハリネズミにされる事にも怯えず、一騎打ちを仕掛ける胆力は褒めてやる。この人食い虎が」
「下らない。包囲された上での矢如きで私が死ぬわけないでしょ? 負けるのが怖いんなら毒矢でも使えば?」
「使わない。使う訳が無い。貴様と孫権には死などという単純な安息など与えてはやらん」
「あっそ、ならいいわ。仕える主を間違えたお前に、私が安息を与えてあげる」
言葉の応酬の間ぶつかる闘気に、誰しもが震えた。武将という隔絶された力を持つモノ達の、本気の殺し合いに誰しもの心が沸き立った。
人とは、どこまでも愚かしい。
見世物のようなそれに、兵達は心が高ぶっていたのだ。
賭け事をしているような、遊戯を見ているような感覚。自分の命は蚊帳の外にして、たった二人の勝敗で戦の決着が付くという安堵も含めて。
主への信が絶対の孫呉の兵であろうと、その高鳴りが綺麗な臣従の心であると思い込んでいるだけのモノも多い。人である限り、心の下卑た高揚は抑える事が出来ない。
死兵となった紀霊隊も、その時ばかりは人に戻っていた。
戦場にしては静かになったその場にて、二人は幾分か見つめ合った後、どちらとも無く馬を走らせて……互いに剣を振りかぶった。
†
主が一騎打ちをしている事も知らず、祭は敵本陣へと軍を進めていた。
敵が気付いていないはずも無い。その証拠に、先行させた物見の兵は悉くが帰って来ない。
違和感があった。
長く戦に身を投じてきた彼女ならではの、雪蓮の先天的なモノとは全く違う後天的な勘が告げていた。
――これは……本陣に敵はおらんな。
気付いて一寸、彼女は迷う。冥琳にこの事を伝えていいかど
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ