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賭鬼
第二章

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第二章

「しかしねえ」
「どうしたい?熊さん」
 留蔵は隣にいる無精髭にねじり鉢巻の男の声に応えた。
「何かあったのかい?」
「いや、これだよこれ」
 熊さんと呼ばれたその男は右目をつむって杯の酒を飲んでいた。
「これさ。最近美味くなったよな」
「それかい」
「美味くなっただろ」
「まあそうだね」
 留蔵は熊さんのその言葉に頷いた。彼は鉄火巻きを食べている。こうした場所でこそ食べるものだ。だからこそここで食べているのだ。
「戦争の後随分な味なのばかりだったからな」
「おい重さん」
 熊さんは少し離れた場所にいる白髪の男に声をかけてきた。
「最近入ってきてる酒が変わってきてるよな。どうしたい?」
「戦争が終わって落ち着いたからだよ」
 その白髪の重さんは笑って熊さんに言葉を返してきた。見れば重さんも楽しそうに酒をやっている。
「そのせいさ」
「それでか」
「そうだよ。米もよくなったからな」
「米かい」
「落ち着いてきたよ」
 重さんは笑って自分の杯に酒を注いでいく。
「むしろ前よりもいい感じになったしな」
「まあそれでな」
「そういや鮪も海苔もよくなったな」
「ああ、美味くなったぜ」
 留蔵も熊さんも話をしていく。それと共に酒と鉄火巻きをまたやる。
「これで博打に勝てばな」
「最高だがな」
「さて」
 三人はあらためて博打に顔を向けた。
「はじまるぜ」
「おうよ」
「さあさあ」
 真ん中にいるやくざ者が一同に声をかける。
「よござんすか、よござんすか」
「あいよ」
「何時でもいいぜ」
 こうして丁半がはじまった。留蔵もそちらに顔を向ける。ところがだった。この勝負は彼にとっては随分と分の悪い状況になっていた。
「ちぇっ、今日は厄日だぜ」
 苦笑いして一杯やった。
「全くな。これはよ」
「おや、留さん今日は負けかい」
「ああ」
 憮然として熊さんの言葉に応える。
「今日はな。まあこういう日もあるさ」
「そうだな。それでだ」
「どうするんだい?今日は」
「次の勝負でひけるぜ」
 こう言うのだった。
「こうなったらな」
「そうするかい」
「おうよ。その前にだ」
 ここでゆうるりと立ち上がった。
「ちょっとな」
「便所か」
「飲み過ぎたぜ」
 苦笑いで重さんに返す。
「全くな。負けがこむとな」
「そりゃ余計に悪いな」
「じゃあ今日はやっぱり」
「ああ。帰るぜ」
 また言う留蔵だった。
「便所から帰ったらな」
「そうかい。じゃあ今日はな」
「これでな」
「おうよ」
 こう言ってから便所に向かった。そして用を済ませて皆に挨拶をしてから家に帰ろうと部屋に向かっていたその時だった。ふと前からやって来た影がいた。

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