第一章
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第一章
賭鬼
何時の時代でもこれはある。賭け事がなくなることはない。
それこそ太古からあり江戸時代でも明治でも何時でもあった。昭和も三十年代になったこの時にも当然ながらやる者はやっていた。岩上留蔵もその一人だ。
「ちょっと行って来るぜ」
「またあれかい」
「ああ、あれさ」
こう女房に言葉を返す。肩を少しいからせて店の表から出ようとしている。
「ちょっとやって来るぜ」
「全く。御前さんも好きだねえ」
「酒と女とこれは止められねえんだよ」
「女はあたしだけじゃなかったのかい」
「だからおめえが止められねんだよ」
後ろにいる女房の方を向いて笑って言う。
「おめえをな」
「お世辞言ったって何も出ないよ」
「かわりにツキが出ら」
その笑顔でこう返すのだった。
「おめえの顔見るだけでな」
「そういうもんかね」
「そうさ。まっ、負けそうだったらすぐ帰って来るさ」
「いつも通りだね」
「読みだけじゃねえからな」
留蔵は少し真剣な面持ちになって女房に告げた。
「運が大きいからな。どうしても」
「まあそれはそうだね」
「ツキってやつさ」
今度は笑みになっていた。
「それがねえと博打は止めた方がいい」
「よくわかってるじゃないか」
「わかってねえとやったらドツボだよ」
全てがわかっているような言葉だった。
「それでな。地獄落ちだよ」
「難儀な遊びだねえ」
「その難儀な遊びを今からして来るからよ。ほら」
「いつもあれかい?」
「そうさ、あれしてくんな」
女房に背中越しに急かしてきた。
「いつものあれをな」
「それで場所は何処だい?」
「場所か」
「お寺かい。神社かい?」
こう亭主に尋ねてきた。博打といえばそうした場所で開くのが常であった。これは江戸時代からで寺社には奉行所が入って来れないからだ。だからやくざ者はこうした場所で開いたのである。これは戦争が終わって暫くだったこの時代にはまだ残っていたのである。
「どっちなんだい?」
「ああ、公民館らしい」
「へっ、公民館って?」
「たまたま今日は住職さんも神主さんも留守なんだよ」
「あら、そうかい」
「だからな。そこで開くっていうんだよ」
こう女房に話すのだった。
「公民館でな」
「よくそんな場所で開けたね」
「そこはそれだよ」
右手の人差し指と親指を丸めてくっつけさせたのを女房に見せてきた。
「これをちょっと弾んだらしいな」
「それでかい」
「そうさ。まあそれ位はいいだろ」
「皆がやるからかい」
「そういうことさ。言うならこれは町の皆の遊びなんだよ」
こう理屈をつけているのだった。随分勝手な理屈であったが皆がやるということでまだこうしたことも一応
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