第三章
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第三章
「ゴリラ達が餌食べてるよ」
「はいはい、そうね」
「そうだな」
夫婦は我が子の言葉にかなりうんざりとした顔で返す。彼等は本当にゴリラのことはどうでもよかった。どうでもいいどころかうんざりとさえしていた。
「どうするの、あなた。それで」
「どうするって何がだよ」
「このままゴリラのところばかりにいるの?」
怪訝な顔で夫に対して問うのだった。
「虎とかライオンとか。他の場所に行かないの?」
「僕だって行きたいさ」
これは彼の偽らざる本音であった。
「象とかのところにもね」
「そうよね。けれどこの子は」
またうんざりとした顔で言う。しかしここで二人はお互いの話をしていて我が子からはその顔を完全に離してしまっていたのだ。
「そんなの全然ないから」
「参ったな。けれど引き離すわけにもいかないしな」
「そうなのよね。動物が好きなのはいいことだから」
それは彼等もわかっていた。しかしであった。だからといってこれをどうするかがわからないのだった。引き離すのもやはりであった。
「どうしようかしら」
「困ったな」
そんな話をしている最中に男の子は塀によじ登りそうして。そのうえでさらにゴリラを見ているとだった。何とここで落ちてしまったのだった。
「ちょっと、男の子が!」
「落ちたわよ!」
「えっ!?」
「まさか」
ここで夫婦もはっとした。周りの驚いた声を聞いて。
「男の子がゴリラのところに!」
「落ちたじゃない!」
「ちょっとあなた大輔が!」
「あ、ああ大変だ!」
夫婦は自分の子供が落ちたのを確かめて彼等自身も慌てた声を出す。彼はゴリラのいるその舎の中に落ちてしまったのである。
だが一旦背中を打ったがそれでも平気な顔で立ち上がった。幸い草の上に落ちてそれがクッションになって助かったようである。
「僕は大丈夫だよ」
「そう、よかった」
「まさかと思ったら」
夫婦は自分の子供のその言葉を聞いてまずはほっとした。とりあえず怪我もなく泣きもしていないのを見て安堵の声をあげるのだった。
「けれどあなた」
「そうだよな」
それでも夫婦は暗い顔になって言い合うのだった。
「それでもゴリラのところに落ちたから」
「このままだと」
「大丈夫だよ」
けれど男の子が舎の方から親に対して言ってきた。それも明るい声で。
「だって僕ゴリラのところにいるんだよ」
「だから危ないのよ」
「何でそれがわからないんだ、本当に」
「だってゴリラだから」
しかし男の子の言葉の色は変わらない。すぐ側にゴリラ達がうろうろしている。皆それを見て冷や冷やとしているがこの子だけは全く平気なのだった。
「平気だって」
「そんなこと違うに決まってるじゃない」
「そうだ、その通りだ」
しかし
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