第十話 気まずさ
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アベルは泣きつかれ寝てしまったミレイを抱きかかえ、寝室に運んだ。
ミレイに毛布をかけアベルは寝室をでた。
「アベル殿」
「ピエールか」
廊下からスライムナイトのピエールがこちらに向かって言った。
「本当にアベル殿はあの少女を信じているのですか?」
「ん?そうだけど?」
「私には、あの少女は不可解に思える。出自、旅に同行した目的。私はミレイ殿より後に加わったがあの少女は謎に包まれすぎている。」
「確かにそうだよ。ピエール」
旅のとき何回かアベルはミレイにどこから来たのかをたずねていた。しかしいつもはぐらかされていた。その事を考えるなら確かにミレイは謎だらけだ。だがミレイはどこにでもいる少女だった。明るく元気で、幼馴染のビアンカを彷彿とさせる少女だった。
「ミレイはよくわからない事が多い。だがさっきミレイは自分について話してくれたんだ」
ミレイが語った内容は断片的な事だったが十分だった。『私はどこかの誰かの所為で友達も、家族も何もかも失った。私は、もうあそこに戻れない』
どれほど辛かっただろう。何もかも失ってなお無邪気に笑い続ける事が。
どれほど悲しかっただろう。自分だけ取り残され、もう日常が戻らなくなってしまった事が。
「ミレイは泣きながら言っていたんだ。自分は友達も家族も何もかも失ったって。もう戻れないって」
アベルだって失った。母、父、友人、故郷。だがそれは元に戻る可能性がある。しかしミレイは違った。元に戻らないとわかっていて、それでも元気に笑ったりしてそんな気持ちをどこかに押しやっていた。それが、(何故かは知らないが。)押さえ込む事ができなくなっていた。
そしてアベルは思った。
「ミレイに戻る場所がなくなってしまったのなら……僕が、僕たちがミレイの戻るべき場所になろうと。ミレイが辛い過去を思い出さなくてもいいように、僕たちがミレイを支えようって。そう思ったんだ」
「アベル殿……。私は自分を恥ずかしく思っています。出自などが不明というだけでミレイ殿に疑心を抱いてしまったことを」
「気にすることはないさ、ピエール。人間も魔物もそういう気持ちになる事もあるよ。さ、もう寝よう。お休み、ピエール」
「お休みなさい。アベル殿」
アベルはピエールと別れ、ミレイとは別の寝室に向かい、そこで眠りについた。
朝起きて、廊下を歩いているとミレイに会った。
「あ、ミレイ。お早う」
するとミレイは、うつむき黙り込んでしまった。どうしてしまったのだろうか?
「……?どうした?体調でも悪いの?」
「な、何でもないよ。私はすこぶる元気だぜ!」
「?いや、ミレイ何か変って……あ」
何でも大ありだと思いつつ口を開いたアベルはある事に気がついた。ミレイは昨夜、アベルに泣きながら抱きついていた。その事を気
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