暁 〜小説投稿サイト〜
打球は快音響かせて
高校2年
第五十四話
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伊東。伊東は関東州には珍しい、ボーイズリーグ出身の選手だ。勿論、鷹合の事も知っている。

(伸び悩むとか、ありがちな事だけどな。可哀想に。)

内心同情しながら、伊東は初球のストレートを投げ込んだ。
様子見の際どい球。ただ、あまり気持ちの入っていない棒球だった。

(いただきィーー!!)

鷹合はそのボールに初球からガッついていく。
その一球に伊東がどんな気持ちを込めていたかなんて、そんな事に遠慮など一切しない。
打てそうな球を打つ。それが今は鷹合にとって一番楽しい事だった。

カァーーーン!

背中を叩くような鷹合のフルスイング。
バットの真芯に弾き返された打球は一直線にセンターの頭上を襲う。

(おぉゥ!?)

あらかじめ深く守っていたはずのセンター東の、必死の背走が全く追いつかない。ジャンプした東のグラブの上を越えた弾丸ライナーは、センターフェンスに大きな音を立てて弾んだ。

「よっしゃー!」

鷹合は俊足を飛ばし、クッションボールの処理にもたついている間に悠々三塁へ。口羽高校のエース伊東から、物凄い打球の三塁打を放ってみせた。

「うぉー!ナイバッチー!」
「覚醒しとるなお前ー!」
「アホには野手が似合うとるわー!」

三龍のベンチも意気上がる。
チーム随一の“アホの子”の一打は、一二番の連続三振で沈んだ雰囲気を一瞬で変えた。

(……何が伸び悩みだ。あんな打球、今まで見た事もないよ。)

打たれた伊東は少し顔を引きつらせた。
あんな凄まじい打球を放つバッターに、多少の同情心を一瞬でも抱いた自分がとことんアホらしい。ベンチを見ると、笠部監督が怒っていた。不用意だと言いたいのだろう。全くその通りである。

(調子に乗らせるのはいけないな。4番か。ここはキッチリ、三振にとる。)

湧き上がる三龍ベンチをチラリと見ながら、伊東はセットポジションに入る。打席にはぽっちゃり体型、三龍の4番飾磨。

(喰らえ!)

伊東は今度こそ、相手をねじ伏せるように力をこめて投げ込んだ。

カァーーーン!
「あっ……」

その初球を、飾磨がジャストミート。伊東が思わず声を漏らしている間に、打球は右中間を割っていった。

「ナイバッチー!」
「デブの打球はよく飛ぶわー!」
「ええぞ、デブー!」

三塁ランナー鷹合が悠々帰ってくる。
口羽相手の先制点に、三龍ベンチはお祭り騒ぎ。3番4番の長打攻勢でまず一点をもぎとった。
飾磨はやっと辿り着いた二塁ベース上で、渾身のドヤ顔を見せた。

(伊東の悪い癖。ピンチになるとすぐ相手をねじ伏せようとして、高めに浮いた真っ直ぐを打ち返される。)

一塁のポジションで口羽高校の4番・阪濱が、不甲斐ない自軍エースに呆れ顔を作っ
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