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新米提督お仕事日記
いち。
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ならないこの体たらく。これで「分からない」なんて返答だったら詰みである。だが彼女は数秒、ぶつぶつと口の中で何事かを呟き、顔をあげて私を見据え───
「気をつけぇぇええ!! なのです」
「は、はいィッ!?」
 信じられない声量の怒声が周囲の木々や建築物をぶるぶると震わせた。当然、私の全身も。しかしそこは何年もかけて身体と魂に刻み付けたアレである。無意識の内に姿勢はきっちり『気をつけ』だ。つまり、なんだ。今、私は委縮しているのか。こんな小柄な少女を相手に。鬼のように厳しかった教官達を前にした時と同様の感覚で。
「ふん、軍人にしてはアレだけど、訓練くらいは一通り積んでいるみたいなのです。貴様、所属と階級、名前は」
「はっ! 統合国家アジア区極東防衛軍所属、カズイ=アリマ少佐であります!」
「それは昨日まででしょ? 今現在の貴様は何者なのかを聞いているの」
「あ、えーと」
「こんな事で言葉を詰まらせる馬鹿がいますか馬鹿者」
「げふっ」
 本来なら頭でもしこたま殴られただろうところだが、少女の体躯はあまりに小柄だった。故に彼女の拳は見事に私の鳩尾に突き刺さる。しかし膝を突くワケにもいかず、なんとか直立不動の姿勢を保つ。私ってば軍人の鑑。
「ま、いいのです。アリマ少佐……いいえ、アリマ『提督』」
「はっ」
「ようこそヨコスカ鎮守府へ。最初の質問の答えはこれで分かりましたか」
「ちんじゅ……ふ?」
「そう。『我々』艦隊がこの地、この海域を鎮守する。故に『鎮守府』。難しい事はないでしょう?」
「はっ、了解であります!」
 今度こそお腹を殴られないように姿勢を正し、理解しましたのポーズ。……いや実のところあんまりよく分かってないんだけども。
「……貴様ねぇ」
「はい?」
 少女は険しかった目つきを更に厳しくする。
「何もかも間違ってるって気付いてる?」
「な、何がでありましょうか」
「敬礼の仕方から口調までよ。それは陸軍式。海軍式はこうです」
 少女は出来の悪い子供に教えるように敬礼の仕方を私に教えてくれた。真似してみせると、ようやく機嫌が直ったのか年齢相応の笑顔を見せる。……しかし、なんなんだろうこの子は。色々圧倒されすぎてまったく口を挟めなかったぞ。
「質問、よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「先ほどの話から察するにお嬢さ──貴方は軍関係者、なのでしょうか。というか、ええと……あんまり考えたくないのですが、上官でいらっしゃる……?」
「馬鹿なのですか貴様は。貴様はこの鎮守府の総司令官、軍部は内陸に引き籠もり。ここには貴様以外の軍人はおらず、この海域は貴様が治める陣地なのですよ?」
「待って。じゃあなんで貴方はさっきから妙に偉そうに──んん? 他に軍人が居ない? 私だけ? では、君は……?」
 他にも色々と気がかり
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