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第一章
褥の墓場
彼はそこにいた。長い間そこにいた。
もうどれだけいるのか。七年だったか。覚えてもいられなくなっていた。
左目も見えなくなり立てなくなった。そうして身体を蝕む激しい痛みに耐えながら今人を呼んでいた。
「誰か。来て」
彼は言いながらベルを鳴らしていた。
「誰か。早く」
程なくその部屋に人が来てくれた。家の使用人と年老いた男が。年老いた男を見て彼は少しだけ笑顔になった。その痩せて瘡だらけになった顔で。
「叔父さん」
「どうかしたのか?」
叔父さんと呼ばれたその男は彼を心配する顔で扉から見て問うた。
「一体何か用か?何でも言ってみてくれ」
「紙が欲しいんだ」
彼は力ない声で叔父に告げた。壁と天井のほかは何もない部屋。ベッドだけがある部屋の中で。そこに来てくれた叔父に対して言ったのだ。
「紙がね」
「紙か」
「うん。あと鉛筆をね」
それも頼むのだった。
「欲しいけれどいいかな」
「そうか。紙と鉛筆か」
「久し振りに書きたくなったんだ」
微笑みもまた力ないものだった。しかしそれでも微笑んだのだった。
「だからね。いいかな」
「それでしたら私が」
「いや、いい」
老人は自分が行こうとした使用人を止めたのだった。
「それは。いい」
「宜しいのですか?」
「言っていた筈だ」
そしてここで使用人に対して告げるのだった。
「ハインリヒの世話は私がするとな」
「左様ですか」
「だからいいのだ」
あらためて使用人に対して告げた。
「ハインリヒに関してはな」
「はい。それでは」
「ではハインリヒ」
老人は使用人に話したうえであらためて彼に顔を向けた。その声は老人にしてはやけに高くそして何処か声色の感じがする声ではあったが。
「少し待っていてくれ」
「うん。待たせてもらうよ」
彼はその力ない微笑で叔父の言葉に頷いた。
「少しだけだしね」
「そうだ。少しだけ頑張ってくれ」
老人は今度はこんなことを言うのだった。
「少しだけな」
「叔父さん、いつも有り難う」
彼は老人の言葉を聞いて静かに微笑んで述べた。
「僕の為に色々としてくれて。昔から」
「甥だ」
老人は言った。
「御前は私の甥だ」
「だからなの?」
「そうだ。大切な甥だ」
甥であるということを強調するのだった。
「大切だからだ。だからな」
「本当に有り難う」
彼はこう言う老人に対してまた礼を述べるのだった。
「本当にね。いつもね」
「いつもじゃない。これからもだ」
過去や現在だけではないのだった。
「これからも私は御前の為にいる。それを忘れないでくれ」
「うん、何があっても忘れないよ」
彼はここでも微笑んで応え
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