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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜2
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哀しげな眼に見つめられ言葉を失う。何と答えればいいのだろう。彼は妹を置き去りにしてから確かに言った。
「あの子は、もう帰る気はないと?」
 表情に出ていたのだろう。静かに彼女は問いかけてきた。慌てて答える。
「いえ、違います。……その、もう帰れないと」
 もう帰れない。彼はあの時そう言った。微妙な言葉の違い。だが、おそらくそれは重要なものだ。そこに、どんな意味があるのかは僕には良く分からなかったけれど。
「そう……」
 もちろん、そんな言葉で彼女の表情が晴れる訳もない。意外だが、本当にこの二人は親子なのだ。そして、彼らは家族だった。おそらくは彼の全てを知って、それでもなお受け入れている。
「光お兄ちゃんは……何者なの?」
 そんな中で、一番末の妹が言った。どうやら、彼女だけは事情を知らないらしい。
『知りたいか?』
 その本の問いかけに、彼女は恐る恐る頷く。
『なら、覚悟しろよ』
 確かにその内容を受け入れるには、覚悟が必要だった。
 その本が言うには、彼はかつて存在したとある少数民族の末裔であるらしい。そして、その少数民族は生来、周囲の物を自在に操る力があったと言う。その彼らに、異民族の侵略的流入という悲劇が訪れる。その異民族は、彼らの『不可思議な力』を恐れ、戦き――『魔と契約したもの』という烙印を押し弾圧して行った。もちろん、その少数民族も必死で抵抗したが、結局は敗北、異民族の社会に取り込まれていく事となる。
 問題はそこから先だ。その戦争が残した爪痕の一つに、『魔物化』という現象があったらしい。彼らの『不可思議な力』――『魔法』と呼ばれるようになったその力の影響で、動植物が凶暴化、人間に危害を加えるようになったという。もちろん、その影響は人間にも及んだ。人間の魔物化。それに対抗できるのは、皮肉にもその少数民族の血をひく者達――つまり、魔法使いしかいなかった。もちろん、倫理的な問題もあっただろう。理由は何であれ、それは人殺しなのだから。そう言う意味でも、忌み嫌われていた魔法使いは汚れ仕事を押し付けるには都合がよかった。魔法の力に頼ろうとするのは、魔法使いを弾圧する者たち。そんな皮肉な状況の中で、彼らは魔物退治を続けていった。彼らもまた、自らの力を活かす場所を求めていたから。
『魔物退治ってのはつまり、魔物化した人間を殺すことだ。それが魔法使いの存在意義だし、掟でもある。そして、相棒は最も力ある魔法使いの一人だった』
 彼が最初に言った『正義のための人殺し』とはそれを意味する言葉だったのだ。
 なるほど、と思う。彼にとって魔法とは殺しの術なのだ。そんな血濡れた道に妹を巻き込もうとした存在を許すことはできないだろう。それが誤解だとしても。
『さあ、どうする? お前の大切なお兄ちゃんは人殺しだぜ?』
 それでも、追いかける
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