第三章
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第三章
「是非共」
「そうか。剣を握るか」
「その為に来ましたので」
そしてまた答えるのだった。
「ですから。御願いします」
「わかった。それでは参られよ」
女の言葉は強いが礼儀正しいものであった。
「道場にな」
「はい、それでは」
「こちらだ」
言うと踵を返した。そうして山寺の右手に向かう。
山寺もまた古く歴史を思わせるものがあった。そしてかなり大きくもあった。
道場もまた同じであった。凌駕のいる街でもここまで大きな、しかも古い道場はなかった。彼はその古い大きな道場に案内されたのである。
「まずは着替えられよ」
「あっ、はい」
「防具も竹刀もあるな」
「こちらに」
その肩に担いでいるものを見せる。黒革の竹刀袋と道具袋だ。それをここで見せたのだ。
「ありますので」
「では暫くしてから私もここに戻る」
その間に着替えよというのであった。
「それではな」
「はい、お待ちしています」
すぐに着替え防具や竹刀を出す。着替えた服は防具袋の中に入れた。そうしてそのうえで防具や竹刀を置きその防具の後ろに正座していると。程なくして女が戻ってきたのであった。
「待たせたか」
「いえ」
こう女に返した。
「今仕度を終えたところです」
「それは何よりだ」
見れば彼女は上は白で下は黒の道着だ。それは先程と同じだ。しかし決定的な違いがあった。右の脇に防具を、左手に竹刀を持っていた。完全に剣道の構えだった。
「それでは。早速剣道をするか」
「はい、それでは」
「そういえばだ」
女は彼の前に座り向かい合ったうえでまた言ってきた。
「まだ私の名前を言っていなかったな」
「そうでしたね」
凌駕も彼女の言葉に答えた。
「貴女のお名前は。何というのですか」
「渡辺言葉という」
「渡辺言葉さんですか」
「そうだ。それが私の名前だ」
こう名乗るのだった。
「それがな」
「それが貴女のお名前ですね」
「その通りだ。そしてこの山寺で修行している身だ」
今度はこう語ってきた。彼と向かい合い正座したまま。既に防具はその前に、竹刀は左に置き手拭は面の上にかけてある。それは凌駕と全く同じであった。
「ここでな」
「そうでしたか」
「大学を卒業して暫くになるが」
彼女はまた言ってきた。
「その時からここで修行をしている」
「というと住み込みでですね」
「貴殿のことは知っている」
またこのことを話してきた。
「それはな」
「そうですか。では」
「私も同じだ」
今度の言葉はこうであった。
「家は剣道の道場をしている」
「道場をですか」
「京都の方でだ。市内で今は父上と兄上がやっておられる」
「そうですか。本当に同じですね」
彼女の言葉に凌駕も頷いた。
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