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邪炎騎士の御仕事
邪炎の産声
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そうして、ようやく黒騎士が初めてその身をぐらつかせる。その隙を女は見逃さない。

 ≪タルタロスの支配者にして、法の執行者ウリエル。今こそ御身の御名の下、神を冒?する者を永久の業火で灼かん!≫

 女の『神の火』の異名は伊達や酔狂ではない。彼女はウリエルの加護を得て、その裁きの炎の一端を与えられているのだ。女の聖句に従って、現れるのは巨大な炎の剣。撃ちだせば、火炎に対する耐性を無視して神の敵を焼き尽くす。正真正銘の切り札である。

 「大いなる主の御名において、裁きを受けなさい!」

 黒騎士に向けて射出される炎の剣。それはミサイルさながらに敵を穿たんとする。それに対し、黒騎士は避けようともせずに正面から相対する。そして、両腕を振り上げた。その手にはいつの間にか燐光に似た不浄な青白い光を放つ灰色の魔剣が握られていた。

 ウリエルの炎を宿した巨大な炎剣と黒騎士が振り下ろした不吉な魔剣が正面からぶつかり合う。聖なる裁きの炎と極寒の冷気はお互いを相殺しながら鬩ぎ合い、そして最終的に勝者は無く核となる剣が砕け散ることで終結した。

 「そんな……!」

 ありえない!絶対の自信をもっていた切り札が相殺されるなど夢にも思っていなかった女は、ここにきて致命的な隙を晒してしまった。それを見逃す黒騎士ではない。

 足元を爆発させ、火炎噴射の要領で爆発的な加速を生み出した黒騎士は一瞬で女との距離をつめる。慌ててパワー二体が主を守ろうと立ち塞がるが、黒騎士はものともせずに斬り抜けた。

 「な、なぜ?ゴフッ……」

 今際の際に女が見たのは、あの黒騎士の握る不浄な青白い光を放つ不吉な魔剣だった。自身の切り札と相殺して砕け散ったはずのそれがなぜあるのか理解できぬまま、『神の火』と呼ばれた女は死んだのだった。

 テンプルナイトが死に最強戦力にして指揮官である女を失ったメシア教には、最早抵抗する余地などなく、一人また一人と屍を晒すこととなった。結局、30人中一人として生きて帰ることなく、彼らの神の御下へと送られたのだった。

 この日、誰も知ることなく後に『邪炎騎士』と呼ばれることになる存在が、鮮血と紅蓮の炎に彩られた紅の祭祀場で産声を上げたのだった。


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