邪炎の産声
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女の死ぬの早いか遅いかの無意味な愚かしい行動でしかないのだから。まったくその通りだ。俺が護ったところで、この少女は俺の後に殺されるだろうし、下手をすれば俺ごとぶち抜かれて殺される可能性すらあるのだから。
だが、俺はこうも思うのだ。男が女の前で見栄を張らずしていつ張るのだと。
とはいえ、二度目の死が怖くないわわけではない。むしろ、死を一度体験しているからこそ、何よりも恐怖しているし誰よりも忌避している。しかし、それでも死に際を汚したくはなかった。前世では事故死で死に際も糞もほぼ即死だったが、今生では無様は晒すのは御免だった。それに無様に足掻いたところで、目の前の狂人を喜ばせるだけだ。それだけは絶対に許せなかった。
狂人の刃が振り上げられる。真っ二つか、首切りか、果ては達磨か定かではないが、死の運命は揺るがないだろう。そう確信し、俺は覚悟を決めて目を閉じた。最後まで狂人の顔を見ているなど、絶対にごめんであったから。
ドーン!!
次の瞬間、劈くような爆音と共に地面が揺れる。まさかと思い目を開けば、飛び込んできたのは白煙と銃弾の嵐だった。それは狂人を襤褸布のようにかえ、当然の如く人体を貫通した銃弾の豪雨はその背後にいた俺達へと殺到した。
ここでまたしても予想外の幸運と不運が俺を襲う。本来なら、当たるはずだった銃弾を俺は何者かに押し倒されることで幸運にも回避することに成功したのだ。いや、誤魔化すのはやめよう。それは同時に不運でもあったのだ。護るべき少女が蜂の巣になったのだから。俺を押し倒したのは背後に庇っていた少女だったのだ。きっと助けようとしたわけではあるまい。突然の揺れと爆音に驚いて、不安になって目の前の人間に縋りついただけなのだ。それが俺が予期せぬ事態に動揺していたこととあいまって、押し倒すという結果になっただけなのだろう。それは偶然でしかない。が、結果的にとはいえ、俺は護るべき存在に命を救われてしまったのは紛れもない現実であった。
そして、最大の不運は俺がここで生き残ってしまったことだったのだ。ここで死んでいたらと、後で何度思ったことか……。
祭壇には少女と狂人で規定数の生贄が捧げられてしまっていたのだ。つまり、それは儀式の完遂を意味していた。なんとも皮肉な話である。儀式を中断すべく放たれた銃弾が、最後の引き金となったのだから。
狂人達の儀式はある神を招来する為のものだった。そして、本来拝謁するのは俺を殺さんとした狂人のはずであった。だというのに当人は死んでいる。だが、儀式は完遂されたのだ。ならば、代理が選出されるのは自明の理であった。祭壇にいる唯一の生者、すなわち俺である。
結果として、俺はそこで神に会った。まあ、神は神でも『邪神』であるが……。
旧支配者『クトゥグア』、それが俺の今
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