第五章
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第五章
「是非共。やらせて下さい」
「それで料理の方は」
「そちらの方も御心配なく」
ここでもにこりと笑って親父に告げるのであった。
「私はお寺では料理を担当していまして」
「そうだったのですか」
「はい。今は托鉢での修行中の身ですが」
一旦寺を離れて修行をしていたのである。タイの僧侶ではこうしたことをする者がわりかし多い。基本的に上座仏教であり個々の悟りを重視するから修行が尊ばれるのである。
「そうした経験もございますので。お任せ下さい」
「わかりました。それでは」
親父もその言葉を聞いてまずは安心した。それでアッサムにうどんやそばを作ってもらうことにした。こうして彼はそのうどんとそばを作ることにした。しかし。いざ作ろうとすると大きな問題が山積みになっていたのだった。
「麺の材料は何とかあるな」
それ程戦禍を被っていないタイでは食べ物があった。だからまずは小麦とそば粉は手に入った。問題はその練り方であった。
「どうやって練るのだろう。タイでのそれと同じなのかな」
首を捻りながら考えていた。まずここで間違えてはどうにもならない。それで彼は困っていたのである。
「日本軍はもういないし。誰か知っていてくれればいいんだが」
しかしここで。思わぬ助っ人がやって来た。市場で小麦粉とそば粉を買ったままあれこれ考えている彼のところに一人の老人が声をかけてきたのだ。
「おお、日本のそばでも作るのかのう」
「そば!?」
その話を聞いて老人の声の方に顔を向ける。するとそこには小柄で温厚な笑みを浮かべる髪の毛一つない頭の老人がにこにことした顔でいた。その手には杖がある。
「おそばを御存知なのですか」
「御存知も何も作っておったわ」
老人はそう彼に語るのであった。
「日本軍の炊事兵に教わってな」
「日本軍にですか」
「そうじゃ」
老人はこう答えてきた。アッサムは彼の言葉を聞いて目の前に御仏が現われたのではないかとさえ思えた。
「本当なのですか、助かります」
「おやおや、待ってくれ」
アッサムに助かるとまで言われて老人はその顔を苦笑いにさせた。
「お坊様にそう言われる筋合いはないぞ」
「いえ、本当に」
だがそれでも彼は言うのであった。
「まるで雨の様です。渇きの時の」
「そこまで言ってもらえるとはな」
老人にとっても嬉しいことのようであった。その顔に苦笑いと共に先程のにこにことしたものも混ぜてきた。
「それでじゃ。うどんとそばを作るのか」
「はい、ですが」
ここでも彼は正直に述べるのであった。
「作り方は知りませんので。麺の練り方でさえも」
「ふむ。それも御存知ないか」
「どうやって作るのでしょうか」
「お坊様は料理の心得はおありかな」
今度はそれを聞いてきた
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