二人の姫の叶わぬ願い
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の心には、味方でさえ嫌がらせの駒として使い、何も伝えぬまま殺し合わせる異常者達への恐怖が一筋、深く……深く刻まれた。
彼女は戦というモノの、本物の醜悪さを知った。
†
部屋の中は重苦しい空気に支配されていた。
本来なら、無事を確かめあって、やっと会えた小蓮と一緒に楽しい話を沢山するはずだった。なのに何故、このような事になっているのか。
思春も、明命も、亞莎も……沈黙したまま何かを話そうともしない。
小蓮は昔のように元気いっぱいの様子で私の胸にでも飛び込んでくると思っていたけど、バツが悪そうに私の顔色を窺っているだけ。
亞莎とは、互いに戦の報告をこの部屋に来るまでに終わらせてはいる。小蓮はと聞いても直接話すべきだと言われるだけだった。
黙っていても仕方ない。此処は私から切り出すしかないんだろう。
「皆には先に言っちゃったけど……お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」
寂しげな笑顔だった。
私が言うより先に、真っ直ぐに目を見て告げられた。歓喜と悲哀半々が揺らぐ瞳は、何かを訴えかけるかのよう。
記憶にある明るい笑顔では無くて、どうにかそうしようと振る舞っているような、私の知らない小蓮の表情だった。
胸が締め付けられる。沸き立つのは哀しみ、悔しさ、自責に後悔。
妹を差し出したのは私達。小蓮にこんな表情をさせているのは私達……否、私。
戦乱を抜けて行くにあたって、もしもの事を考えて、王として後継になる為に私は残れず、小蓮が首輪になるしかなかった。
手紙の送り合いは一切遮断され、気軽に街に出る事も出来ず、城の中で過ごすだけの籠の鳥。会いに行こうにも門前払いで、里帰りも許されぬ異質な軟禁。
私が行っておけば……と、どれだけ考えた事か。
責めて欲しいと思っていたのに礼を言われ、妹の優しさが罪悪感を膨れ上がらせていく。
「ううん、いいの。長い事待たせて……ごめん、ね」
ポロリと、胸の内から出たような言葉だった。謝らずにはいられなかった。
堪らずそのまま、対面の椅子に座っている小蓮を抱きしめた。
幾年かの月日で少しばかり成長した身体は、私が見ていない空白の期間を教えてはくれない。私には一生知る事が出来ない数年。
たった一人、敵の真っただ中で耐え続け、どれだけの苦悩と苦痛があった事だろうか。
ハッと気づく。もしかしたら、袁家の連中によからぬ事を受けていたのではないか。それのせいで、小蓮は変わってしまったのではないのか。聞くことも憚られるような事があったのではないか。
心配が伝わったのか、小蓮は苦笑を一つ。
「私は何もされてないよ。何も無さすぎて……本当に平和過ぎて……人質だったのかどうかも、城から出られなかった事だけで自覚するくらいだった」
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