二人の姫の叶わぬ願い
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陣の外側で鳴り響く。
一つ……二つ、三つ、幾つも鳴り響くその音は、袁術軍の陣内でも、蓮華の兵が待機している場所をぐるりと囲った。
劉備軍への警戒の為に間者を増やしていた孫呉の頭脳冥琳は、シ水関で見た参列突撃戦術の対策及び流用を狙って笛の開発を極秘で進めていた。
街での警備にも使えるというのに出していなかった理由は、次に袁術が攻めるは劉備軍と見越して被害を増やさせようと考えて、笛での簡略指示は徐晃隊の要であるのだから必ず使うと読んでいたのだ。
それを弟子である亞莎が利用しないなどと、そんな軟な教え方を冥琳がするわけがない。
夜に笛が鳴れば、孫呉側が持っているなどと知らない袁術軍の兵は思い出す。恐ろしい敵を、悪鬼の部隊を、無感情な絶望の存在を。
天幕からは次々に兵が飛び出し、敵襲が来たと勘違いして慌てふためく。部隊長達は纏めるのも遅れてしまう。袁術軍にとって夜襲はトラウマとなっていた。
さらに袁術軍には酷な事に、亞莎は学び成長していた。
陣内のそこかしこで火が上がる。
火計の恐ろしさ、有能さを冥琳からしっかりと学んでいる亞莎は、蓮華が逃げきれると信じて笛と同時に火を放たせるように指示していたのだ。
外からの火は恐ろしい。しかし中からの火は……比べものにならない程恐ろしい。
ごった返す人ごみの中、天から矢が落ちてきた。影に隠れた孫呉の兵によって無作為に放たれたその一本の矢は、混乱を助長するには十分である。
敵襲! と大きく叫ぶのも纏まり始めた孫呉の兵達。さも、自分達は関係ないかのように振る舞いながら、出陣の為だというように出口へと脚を進めて行く。
蓮華は赤く燃える陣内で、袁術軍の兵が行きかう中をただ駆け漸く……出口へとたどり着いた。
警備の兵はもう居ない。いるはずも無い。
笛によって気を引かれ、内部の火に気を取られ、混乱のるつぼにいる味方達を見て、練度の低いモノ達が逃げないわけが無い。ましてや、先の二万の先遣部隊壊滅と同じ手口であるのだから恐怖に駆られるのも当然であった。
ほっと息を付いた蓮華は、それでも警戒を怠ることなくしばらく進む。火の手が少し遠くなった所で鈴の音を鳴らした。
陣から四十丈ほど進んだそこに居たのは、五人の兵。小蓮を救い出してからすぐに駆けてきた思春の部下達であった。
「ご苦労。建業の城はどうなっている?」
一言労い、一番厄介な敵がどのように動いて来るのかと尋ねた。
「呂蒙様率いる三万の軍と、甘寧様、周泰様の部隊五千を以って城を包囲しています」
「……ということは、二人は無事なのだな」
部下が死ななかった事を知り、蓮華の心に安堵が浮かぶ。どちらかが死んでしまうかもしれないと、自分で命を下して送り出しながらも不安に思っていた。
そのまま、蓮華は馬に
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